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2014-03-21 00:00
中国の夢、ロシアの夢、日本の夢
松井 啓
大学講師、元大使
アメリカの世紀といわれた20世紀は去り、オバマ政権で「パックス・アメリカーナ」は終焉し「アメリカの夢」は輝きを失った。代わって中国の習近平は「偉大な中華帝国」の再興という「中国の夢」を標榜して、中国共産党政権の国内基盤を固め、経済力に加え軍事力、特に海軍の拡充と宇宙開発を目指し、周辺諸国の不安を掻き立てている。
他方、ソ連時代に秘密警察組織(KGB)の要員として働いたプーチン現ロシア大統領は、ピョートル大帝を尊敬し、「偉大なロシア」の建設を夢見ている。ユーゴスラヴィア崩壊で後れを取り、クロアチア独立でドイツに主導権を取られ、最後にはコソヴォ独立で押し切られた。そのしっぺ返しとして、2008年8月の北京オリンピックの最中に勃発したグルジア戦争を契機に南オセチアとアブハジアをグルジアから独立させて承認した。本年3月には念願のソチでのオリンピック、パラリンピックを無事終了させてから、ウクライナの政変を契機にクリミア半島を独立させロシアに併合した。同半島はロシア帝国がオスマン・トルコとの苛烈な戦争を経て自己の領土に組み込み、南下政策の重要な拠点としてきた戦略的要地である。ソ連時代の1954年にフルシチョフがウクライナに委譲したが、人口の約60%がロシア人であり、今回のクリミアでの住民投票では95%がロシアへの帰属を支持したと報ぜられている。虎視眈々と失地回復の機会を狙っていたプーチンは、千歳一隅の機会を電光石火でものにしたわけである。
アメリカは、冷戦終了後もっぱら台頭する中国への対応に追われ、ロシアを侮り過ぎた。EUも経済不振で、欧州統合の維持に手一杯であり、ロシアへの対応は後追いとなり、今回の米欧の対露査証制限や経済制裁は、犬の遠吠えとなっている。冷戦時代に比べ、経済分野はボーダレスとなり、相互依存が深化しているので、一枚岩ではない米欧の経済的締め付けは、痛みの我慢比べとなり長続きはしないだろう。翻って日露関係を見れば、北方領土はソ連が終戦時のドサクサに紛れて不法占拠し日本人住民を放逐し、軍事基地を構築し実効支配を固めているので、クリミア半島のごとく日本が4島を一括返還させることは望めない状況だ。特にクリミア半島奪還によるユーフォリアがロシアに高まっている現在、プーチンはロシアにとって明確な成果が見込まれなければ前には踏み出さないであろう。日本は経済力と技術力を武器として戦うしかなく、しばらくは米欧の動きを見極めつつ、糸口を探るしか展望はない。
日本にもかつて「大東亜共栄圏」の建設という「夢」があった。それを再び同じような形で掲げるのは、時代錯誤であるが、日本にも国民を夢中にさせるような「夢」がほしい。現在は長年先送りしてきた防衛、安全保障(エネルギー、食糧)環境、経済構造改革等の諸問題が山積しており、これらの国民的課題を総合的に解決するための長期的な視野と戦略が求められている。目前の2020年に東京五輪を控えて、日本はその立ち位置、国家像、「日本の夢」を国民全体で構築すべき時に至っていると思う。近年選挙の投票率が半分以下のところが多いが、「失われた20年」に生まれた世代が台頭し、新しい「日本の夢」の議論に積極的に参加することを期待したい。
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