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2014-04-09 00:00
ハト派が絶滅危惧種になっているわけ
杉浦 正章
政治評論家
かっての自民党にはハト派がいっぱいいた。これがいまや絶滅危惧種になりつつある。タカ派が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)してハトを食ってしまっているのだ。焦点の集団的自衛権の行使をめぐっても、ハト派は抵抗らしい抵抗はできぬまま、限定容認へむけて妥協をせざるを得ない局面に至っている。こうした中で昔懐かしい名前が登場した。「AA研」である。アジア・アフリカ問題研究会として佐藤政権時代の1965年に発足したハト派集団で、やはり同年賀屋興宣らがタカ派が発足させた「A研」(アジア問題研究会)と自民党内の安保・外交路線を二分する論争を繰り広げた。そのAA研が再発足するというのだが、果たしてハト派を絶滅から救うことができるのだろうか。AA研は、「あのミノファーゲンめが」とタカ派から別称を持って語られた製薬会社ミノファーゲン社長・宇都宮徳馬らが設立した。折から米ソ冷戦はベトナム戦争を軸に佳境に達しており、佐藤内閣はアメリカ支持を続けて、沖縄返還にまで持ち込むことに成功した。こうした風潮の中でAA研は、異端的な存在であったが、ハト派議員の集団として根強い存在感を示し、佐藤も一目置かざるを得なかった。
代表世話人の宇都宮は、中国の国連加盟を推進するとともに、中国、北ベトナム、カンボジアなどを訪問。とくにアメリカと戦争している 北ベトナム首相・ファン・バンドンと会談するなど、佐藤をはらはらさせる行動をとったものだ。その後、元衆議院議長・河野洋平らいわゆるハト派が会長を務めて近隣外交を重視した活動を行ってきたが、最近はとんと名前を聞かず、存在すら忘れられていた。それを党税調会長でAA研会長の野田毅と同会長代理の大島理森が再発足させようというわけだが、安倍のタカ派路線に対抗するようなムードが高まるかと言えば無理だろう。そもそも焦点の集団的自衛権容認問題について野田は先の総務会で、「絶対反対」を打ち出した村上誠一郎を支持する発言をしているが、その後副総裁・高村正彦の説得に応じて、限定容認を受け入れている。もともと野田は昨年の総選挙前、毎日新聞のアンケートで憲法改正賛成、集団的自衛権の行使容認、尖閣問題で中国に強い態度を取ることを選択しているのだ。その野田がいまさらハト派を糾合しようとしても、同調者は少ないものとみられる。むしろ安倍の次を狙った総裁選対策かと疑心暗鬼が党内に生じているのだ。AA研に参加などすれば、夏の内閣改造で干されかねない。
ハト派はまさに断末魔のあえぎをしているように見える。なぜこうなってしまったのか。ハト派と言えば池田勇人が作った名門宏池会だが、その路線「軽武装・経済重視」が時代の風潮とマッチしなくなってきているのだ。経済重視はまさにアベノミクスとして展開されており、軽武装は北の核ミサイルと、中国の国防費激増、その膨張政策で説得力がなくなった。いつまでもお題目を唱えても誰も同調しない時代なのだ。さらに紛れもない極東冷戦の状況は、ある意味で東西冷戦より厳しい対応を日本に突きつけている。米国の国力の衰退により、日本の自衛能力を高めなければ極東に真空地帯が生じてしまうのだ。宏池会は4人の閣僚を出しているが、そのうち外相が岸田文男、防衛相が小野寺五典であり、まさに中国と北朝鮮によるどう喝、威嚇の最前線である。両相とも極めて大人しいが、状況を知れば知るほど自衛力を強めて、抑止力をつけななければならないと感じていることは間違いない。ハト派は選挙区に帰れば中国と北朝鮮問題で発破を掛けられて戻ってくる。下手な行動を起こせば落選の憂き目を見ることになりかねないのだ。
加えて重要な構造的な要因がある。それは小選挙区制の導入である。それを推進した河野洋平がこともあろうに朝日のインタビューで「大失敗です。20年前より政治は悪くなった。こんなに死票が多く、民意が切り捨てられている政治はダメですよ」と述べているが、導入当時から指摘されていたことを20年後になって言われても遅きに失する。なぜ小選挙区制の導入が駄目なのかと言えば、同制度が自民党の「幅」を喪失させたのだ。中選挙区であれば自民党で同一選挙区から3人当選することも珍しくない。これが右から左まで包含した政党の幅となって現れていたのだ。党内にAA研とA研が対立することが可能な素地と包容力があったのだ。ところが小選挙区は候補選定に当たって総裁、幹事長の力が決定的に作用する。安倍が「彼は左だから駄目」といえば、公認されないのだ。だから議員が「金太郎アメ」化する。同じタカ派の顔しか出てこないのだ。こうして内外の状況がハト派を絶滅危惧種に追いやっているのだ。とりわけ選挙制度を変更しなければ、この傾向は変わりようがない。
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