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2014-04-22 00:00
習の“禁じ手”でチャイナリスクが現実に
杉浦 正章
政治評論家
中国の裁判所による商船三井の大型船舶差し押さえは、共産党政権が経済に介入する「チャイナリスク」がまざまざと姿を現したことを意味する。明らかに中国国家主席・習近平は“禁じ手”を使って、日米首脳会談への揺さぶりという実力行使に出た。民間をけしかけた「訴訟→勝訴→差押え」の構図は、今後日本との経済関係において「負のスパイラル」として浮上、作動し続ける危険性を帯びている。既に日本企業の対中投資は減少の傾向をたどっているが、実力行使に対抗するには、日本企業が自由主義経済とは何かを中国政府に“教育”するしかない。もう中国への資本移転は当分やめることだ。日本政府のとらえ方は至極当然である。中国は1972年の日中共同声明で戦争賠償請求権の放棄を表明した。その代わり日本側は対中経済支援を約束し、その約束通りに政府開発援助(ODA)や技術協力を展開してきた。
これまでに有償資金協力(円借款)を約3兆1,331億円、無償資金協力を1,457億円、技術協力を1,446億円など総額約3兆5000億円以上のODAを実施してきた。有償資金協力(円借款)により総延長5,200キロメートルもの鉄道が電化され、港湾分野においては1万トン級以上の大型バースが約60か所整備された。中国の経済成長はまさに日本の援助によって成し遂げられたものであり、賠償放棄の元は国家全体として十分すぎるほど受け取っているのである。官房長官・菅義偉が船舶差し押さえについて「日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と批判したのは当然である。さすがに中国外務省は、報道局長・秦剛が「普通の商業的な契約トラブル」との見解を示してトーンダウンに懸命だ。日本国内にはこれをみて「司法の勇み足」などという見方が生じているが、甘い。中国における司法は、共産党独裁政権の指揮下にあるのであり、党中央の方針に沿うことを使命とする特殊機関である。したがって、明らかに習近平指導部の方針を受けたものと解釈すべき局面だ。つまり政権の政治的意図が十分うかがえるものである。一党独裁体制とは、反日教育をして、反日デモを操り、今度はこれまで抑えていた国民による戦争賠償請求権裁判をけしかけることができる体制であり、民主主義国の普遍的な価値観を当てはめることは出来ないのだ。
さらに重要なのは、この賠償裁判は韓国と連動している気配が濃厚なことだ。政府筋によると「習と朴槿恵の暗黙の了解があり得る」という。現に韓国でも、「戦時中に強制労働させられた」とする韓国人女性らが三菱重工業や新日鉄住金、不二越を相手取った訴訟で、一部勝訴に持ち込んでいる。今後、中国政府の“解禁”方針のもとに各地で訴訟が起こされる形勢であり、既に2月には「日中戦争時に強制連行された」と訴える元労働者や遺族が、三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を賠償支払いなどを求め提訴。北京市の第1中級人民法院がこれを受理している。つまり中国政府は、対日圧力の新たな手段として訴訟をけしかけようとしているのである。司法に勝訴判決を出させて、差し押さえ、対日圧力に活用する。反日教育を受けた一般大衆は日本のODA援助など全く知らないまま大喜びをして、習の人気が上がる。一度始めたら麻薬のように続けたくなる“禁じ手”の中毒症状である。しかし、これは、経済成長がなければ破たんする中国経済からみて、全くの両刃の剣であることを中国指導部は分かっていない。先に発表された国内総生産(GDP)の7.4%の数字を信用している日本の経済専門家はゼロと言ってよい。あまりに好都合な数字であり、その背後に“意図”が感ぜられるというのだ。恐らく5%に乗るかどうかが実態ではないかと見られている。電力消費量や貨物の輸送量など動かしがたい数字から計算するとそうなるというのだ。そのGDPですら、日本からの投資が冷え込めばさらに下がる可能性が強い。
一方で、安くて豊富な労働力といううまみもなくなりつつある。賃金上昇と一人っ子政策のつけで、15歳から64歳までの労働人口が減少し、活力が失われてきているのだ。加えて中国経済は爆弾を抱えている。既にはじけ始めている不動産バブルに加えて、ヤミ金融の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの予想があり、これが時限爆弾となっていつ爆発するか分からない。一方で、市場としての中国はなお魅力に満ちている。自動車販売ひとつとっても年間2200万台であり、米国の倍が売れる世界最大の市場である。日本車が退けば、フォルクスワーゲンの独壇場となる構図でもある。したがって、自動車や電機などの製造業の進出は、リスクを抱えてのものであっても、しかたがないだろう。しかし、一般企業では東南アジアの友好国に拠点を移すケースも増大している。中国商務省の発表した1~3月期の日本から中国への直接投資実行額が、前年同期比でなんと47.2%減の12億900万ドル(約1233億円)にとどまっている。習近平の「実力行使」はこの流れに拍車をかけることは間違いない。さらに中国には4月23日からのオバマ訪日に向けた日米けん制の意図も感ぜられる。日米首脳会談は、基本的には中国を意識した同盟再構築にあり、中国にとって東南アジアにおける孤立化を意味する。ここで存在感を誇示しておこうと考えたのであろう。しかし、中国指導部は自由主義経済に棹さす行為の見返りは大きいと覚悟しておいた方がよい。
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