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2014-04-22 00:00
ウクライナ問題の底流
中西 寛
京都大学大学院教授
ウクライナをめぐる米欧とロシアの対立が高まっている。ロシアのプーチン政権が、クリミア併合を宣言した3月18日の演説に表明された強い西側への猜疑心を抱きながら、在外ロシア人の保護を表明したのは強く憂慮すべき事態である。「大ロシア主義」はバルト三国やカザフスタン、モルドバなどに介入する口実を与えることになり、しかもプーチン大統領は西側と誠意をもって交渉する意思を欠いているように見える。
しかし米欧諸国のこれまでのウクライナに対する政策も非難を免れるものではない。西側はこの国に対して真剣に履行しようという意図が疑わしい空証文を出し過ぎた。アメリカは、この地域に対する防衛コミットメントを裏づける見通しなしにNATOへの加入を認めようとした。ヨーロッパはウクライナとの連合協定を進めたが、基幹的なエネルギーを含む貿易の3割以上をロシアに依存しているこの国の経済を本気で支える意思があったとは思えない。現在、真に恐るべきは、米欧とロシアがウクライナをめぐって帝国主義的対立をしていることではなく、むしろ無責任な介入主義を競っていることである。
実際、今回のウクライナ「革命」の最大の皮肉は、キエフなどでレーニン像が打ち倒されたことではないだろうか。地下のレーニンが、今のウクライナほど哄笑している時と場所はなさそうに思えるからである。ウクライナで2月22日に起きた事の本質は、親西側勢力による親ロシア政権の打倒ではなく、ヤヌコビッチ一族が新たなオリガルヒ(財閥)として台頭したことに対する既存のオリガルヒの反撃と、オリガルヒ同士の政争に嫌気の指した民衆の感情を利した過激民族主義者の連携であったように見える。そうだとすれば、ウクライナの政治勢力も関係諸国も、誰も処方箋を持たずに権力を奪い合っているのではないか。
経済学者ケインズは第一次世界大戦後に書いた文章でレーニンを引用して、「社会の基盤をくつがえすには、通貨を堕落させることほど巧妙で確かな方法はない。インフレの過程では、経済法則の隠れた力をすべて、社会秩序を破壊する方向に動員でき、しかも、社会の秩序が破壊されていく理由を、百万人に一人も理解できないのである」と述べた。資本主義世界はデフレからの脱却のために、膨大な通貨膨張を行っている。その効果は目立ったインフレをもたらしてはいないけれども、根深い腐敗と民衆の政治不信という形で社会秩序を侵蝕しつつあるのではないかと恐れる。
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