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2014-05-07 00:00
米、東南アでの柔軟戦略を推進
鍋嶋 敬三
評論家
オバマ米大統領のアジア4カ国歴訪(4月下旬)は、北東アジアで日韓両国との軍事同盟を強化する一方、南シナ海で中国と領土紛争を抱える東南アジアを重視し、脅威の変化に柔軟に対応する戦略を打ち出したのが特徴である。東南アジア諸国連合(ASEAN)は圧倒的な経済力を持つ中国から最も強い影響力を受ける立場にある。しかし、貧弱な軍備の国がほとんどであり、軍事的に単独で中国に対抗できる能力はないのが現状だ。
マレーシアに米大統領として半世紀ぶりに訪れたオバマ氏は経済と安全保障関係を深化させるため「包括的パートナーシップ」を目指すことでナジブ首相と合意した。両国の共同声明でマラッカ海峡に面するマレーシアが、米国主導の大量破壊兵器拡散防止のための安全保障構想(PSI)の活動指針となる「阻止原則宣言」を支持したことは、北朝鮮やイランの核開発を阻止しようとする米国には大きな収穫だ。さらに南シナ海の紛争について国際的調停の原則を支持することも明示した。
フィリピンとは新しい軍事協定が締結され、比軍基地への米軍の航空機、艦船の展開が可能になった。1992年にナショナリズムの高まりから米軍基地が撤退を余儀なくされた。米軍の存在が空白になった隙を突いて中国が軍事進出、スプラトリー諸島(南沙諸島)のフィリピン側海域のミスチーフ礁に構造物を建造して占拠、南シナ海の85%に及ぶ広大な海域の主権を主張するに至った。新協定の下では米軍はフィリピン国内に基地を持たず、必要に応じて軍隊を派遣するローテーション(輪番)制をとる。ワシントン・ポスト紙は、この軍事協定をオバマ歴訪の「最大の成果」と評価した。中国に対する懸念が強まる東南アジア諸国に対して米国の関与が揺るぎないことを示す「最も明確なサイン」(同紙)だ。この種の協定がない国とも寄港や共同演習を通じて、地域の防衛と安定を図る仕組みをホワイトハウス高官は「東南アジアにおける安全保障のインフラ」と呼んだ。
米国は同盟国のオーストラリアとも北部ダーウィンへの海兵隊派遣などのローテーションによる定期的駐留を実施している。米比協定によって、日本の南西諸島からグアム、フィリピン、オーストラリアへ東経130度線を軸に米軍の随時展開が法的に可能になった。このラインは中国が太平洋進出のため設定したとされる第1、第2列島線と重なる。輪番制の配備による利点は、「普天間」に象徴されるような外国に基地を置くことの政治的マイナスを回避しつつ、新たな脅威など安保環境の急速な変化に応じて柔軟に対応できる点に集約される。オバマ大統領自身、オーストラリアとの協定を例に「環境や能力の変化に応じて同盟が新たな必要性に対応できるよう更新しなければならない」と、その意義を強調した。米国はシンガポールとの間で高速の沿海域戦闘艦(LCS)のローテーション配備を進めており、米比協定で柔軟展開戦略の形成に弾みがついた。
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