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2014-05-21 00:00
集団的自衛権行使への米グリナート構想は10年早い
杉浦 正章
政治評論家
ようやく平和ぼけの政党を相手に首相・安倍晋三が細心の注意で集団的自衛権の行使容認への道筋を立てようとしているときに、米軍トップクラスから「日米による北大西洋条約機構(NATO)と同様の軍事作戦展開」論が出された。何を寝ぼけたことを言っているのかと言いたい。いくら軍人でも首脳部なら、同盟国の政治情勢を考慮に入れて発言すべきである。これでは成るものもならなくなる恐れがある。政府は非公式に米軍幹部の発言を慎むよう外交チャンネルで申し入れるべきだ。放置すれば連鎖反応が起きて、国内論議に跳ね返り、収拾がつかなくなりかねない。米政府は、日本の集団的自衛権の行使容認への動きについて、内心は大歓迎の方針であるが、絶対平和主義を信奉する能天気な政党が存在する日本の政治情勢を考慮して、発言は控えめにしてきた。しかし、昨年の日米外相・防衛相会議や大統領・オバマの来日では歓迎の方針を表明している。米国の軍事費削減や、厭戦(えんせん)気分など国内情勢もさることながら、極東戦略を展開するに当たって日本の存在が地政学上も、戦略上も、軍事予算の面からも、キーポイントとして浮上してきているからだ。
言うまでもなく、中国の海洋覇権主義的な台頭への対抗である。オバマは中国を意識してリバランス(再均衡)戦略を打ち出し、その定着を目指して日、韓、フィリピン、マレーシアの4か国を歴訪し、中国封じ込め的な動きを強めた。これをあざ笑うかのように、中国は西沙諸島で石油掘削を推進、中国国家主席・習近平は5月19日のプーチンとの会談で「蜜月」を演出して、巻き返した。ヨーロッパで孤立するプーチンとアジアで孤立する習近平がまるで「力による現状変更連盟」という“悪の枢軸”に突き進むような勢いだ。東シナ海で中ロが20日から26日までの7日間にわたり大規模な軍事演習を行って、日米同盟をけん制する。米国は硬軟両様の対中姿勢をとりながらも、次第に力による抑止でなければ台頭する中国を押さえ込めないとの見方を強めている。こうした中で渡りに舟とばかりに浮上したのが安倍による集団的自衛権の行使容認への動きである。米海軍作戦部長のジョナサン・グリナートの構想が、それを物語っている。
グリナートは19日の講演で日本の集団的自衛権の行使容認の動きをとらえて「集団的自衛権の行使が認められれば、アメリカ軍は空母部隊やミサイル防衛の任務で自衛隊と共同作戦を行うことができるようになる。日米がさまざまな任務で1つの部隊として共同運用できるようになる」と歓迎した。加えて、「将来的にはNATOの同盟国と同じような共同作戦を展開することも、われわれは考えるべきだ」と述べ、英仏などとの共同作戦と同様の作戦展開への期待を表明した。グリナートは米国防省が計画している有事における「エアシーバトル」構想の責任者である。エアシーバトルは米国が陸、海、空、サイバー、宇宙空間などにおける戦いを統合的に運用して、極東有事に臨む戦略である。この発言は米軍首脳がいかにエアシーバトルにおける日本の役割を重視し始めたかを物語るものであり、いわば米国の安倍政権に対する本音なのであろう。しかし、グリナートは勉強不足で、2つのことを見誤っている。1つは、安倍内閣が目指すものは集団的自衛権といっても、本来の国際法上の役割ではなく、「必要最小限」と銘打った限定的なものであることが分かっていないのだ。安倍も明言しているように湾岸戦争などの多国籍軍には参加しないのだ。せいぜい後方支援に毛の生えた程度しか国情が許さないのだ。
英仏のように多数の死者を出してまで米軍とともに戦う空気などは、安倍政権には全くと言ってよいほどないし、多数の死者が出れば、現在の国情から見れば内閣がいくつあっても足りない。他の1つは、安保法制懇が出した報告書が、決定事項であるように判断していることであろう。報告書は入り口なのであり、出口はまだ先で、米軍の過度な期待が公明党や野党を刺激して事態をこじれさすことが分かっていない。グリナート構想は10年早いが、早期に実現するケースは2つある。それは北のミサイルが飛び交うケースと、中国が尖閣で軍事行動に出たケースだ。これは安全保障が天から降ってくると考えている国民の目を一挙に覚ます結果をもたらす。日本が米国のエアシーバトル作戦で米軍の指揮の下に入り、敵国に対峙することのできる流れが生ずるのだ。そうゆう事態になってからでは遅いから、日米が合同軍事演習で事前に訓練しておくことは、集団的自衛権の行使容認で一層やりやすくなることは確かだ。これはどんどん進めて対中抑止効果を醸成すべきだ。集団的自衛権問題の今後の展開について国務次官補・ラッセルは、訪米中の前衆院外務委員長・河井克行との会談で、集団的自衛権が年末に予定している日米防衛協力の指針(ガイドライン)策定に間に合わせる必要があるとの点で合意した。たしかに公明党の先延ばし戦術に乗って、ずるずる先延ばしすることだけは避けなければなるまい。
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