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2014-06-06 00:00
安倍、快進撃の対中国際世論喚起
杉浦 正章
政治評論家
国際会議で一国がその主張を認められるのは、つくづく不断の外交努力の結果であると思う。間断なく各国首脳と対話を続けて来た首相・安倍晋三の地球儀俯瞰(ふかん)外交が奏功して、極東情勢に関するサミットの「対中宣言」は完全に安倍ペースとなった。シャングリラ会議に引き続く大きな外交上の得点である。安倍は海洋覇権主義を臆面もなく押し出す中国の戦略に、国際世論の盛り上げで対抗する戦略で、待ったをかける流れを作ったのだ。問題はこの不断の努力をいかに継続し続けるかであろう。サミットの宣言でアジアの問題がこれほど深く言及された例を知らない。安倍の各国首脳との会談、とりわけ大型連休中の欧州歴訪、G7開幕に先立つ欧州連合(EU)大統領のファンロンパイとの会談もプラスの効果をもたらしたようだ。極東に関する部分は「法の支配」を前面に打ち出し、「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」などで構成。宣言には、安倍がシャングリラ会合の基調講演で表明した(1)力による現状変更を許さない、(2)法の支配、(3)紛争の平和的解決、の3原則と同様の内容が盛り込まれた。米欧主導のG7首脳の会合で、「中国問題」にここまで深く言及するのは異例の事といえる。
シャングリラからサミットに到る国際世論喚起は「安倍攻勢」とでも名付けてよいほどの勢いがみられた。戦後の歴代政権を振り返っても首相が自らリードする形でこれほど頻繁に首脳外交を繰り返し、意思疎通を図っている例は過去にない。民主党政権時代に日本外交に与えた打撃は目をおおわんばかりのものがあった。外務省の元高官のOBが私に民主党政権時代と比較して「外務省が打って変わって生き生きと動き始めている。」と述べていたが、安倍外交の成功は民主党政権時代に泥沼に落ちた日本外交が自信を回復して、よみがえりはじめたことを意味する。民主党政権は、とりわけ首相・鳩山由紀夫と首相・菅直人がひどかった。ルーピー鳩山と米メディアからやゆされ、臆面もなく普天間移転を「トラスト・ミー」とオバマに約束して実現できない首相。尖閣の漁船衝突事件を外交問題として取り上げず、一地方検事の判断に丸投げした首相。事務次官の存在そのものを否定して、外務省幹部の国際情勢進講も退けた首相。政権自らの手で日本外交を死に体に持ち込んだのだ。外務省OBの指摘のように外務省が「生き生きと動く」のは、一にかかって安倍の姿勢による。
普通の首相ならASEAN10か国を全て訪問するようなことはしないし、米欧諸国歴訪も極めて頻繁である。リーダーががやる気を見せれば、部下は奮い立つものだ。「過去の首相がめったに訪問したことのないような国でも、二つ返事で引きうけてくれる」と関係部署は勢いづくのだ。こうして安倍の外交は外務省の強い下支えの上に成立しているのだ。シャングリラ会議では米国防長官・ヘーゲルと密接な連携をとったタッグマッチを展開したが、外交、防衛当局の事前根回しが奏功したようだ。予期しない攻勢を日米両国から仕掛けられた中国は慌てた。中国人民解放軍副参謀長・王冠中は「講演は想像していない内容だった。日米が結託して中国に挑んだ」と述べるほどであった。昨年と今年の2度にわたって会議に出席している防衛相・小野寺五典は、6月5日夜のテレビで会議の雰囲気を語っている。「昨年はレーダー照射事件の後だったが、私が批判しても様子見の雰囲気だった。今年はがらりと雰囲気が変わっていた。中国にとっては居心地が悪かっただろう」と述べている。王冠中が南シナ海に中国が引いた領有権主張の九段線への批判を受けて「2000年前から決まっている」と反論したのには「会場から失笑が生じた」と言う。
王は安倍に対しても「歴史認識」で切り返そうとしたが、安倍が「日本は戦後大戦への痛烈な反省に立って自由で民主的な国をつくった。ひたすら平和国家の道を歩み続ける」と発言すると、会場は拍手に包まれた。まさに先の投稿記事でも指摘したように、中国による「歴史認識」プロパガンダが、帝国主義的ともいえる「覇権の現実」の前に通用しなくなったことを意味する。産経が安倍の興味深い感想を紹介している。安倍は帰国後周辺に「中国は、マニュアル通りに日本を批判するから場違いになってしまう。日本が『海における法の支配を守ろう』と言っているときに、70年前のことを持ち出しても『何を言っているんだ』となる。私も拍手が起こるとは思わなかったが」と指摘したというのだ。こうして外交上の巻き返しが進んでいるが、中国がやすやすと態度を変えることはあるまい。中国はさっそくG7の宣言に外務省報道局長・洪磊が「かかわりのない国が干渉しても困難さを増すだけ」と強く反発している。日本としても対中包囲網を維持しながらも、硬軟両様の長期戦略が重要になりつつある。
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