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2014-06-19 00:00
政治駆け引きは、自民が上手
杉浦 正章
政治評論家
新聞の見出しは「集団的自衛権巡る協議、会期中の合意困難」というよりは「集団的自衛権、来月初旬にも閣議決定」と“前向き”にするべきだろう。たった2週間遅れるだけのことで、本質は閣議決定が確定的になったところにあるからだ。自民党幹事長・石破茂と公明党幹事長・井上義久の6月18日の会談はそう言う性格のものであったはずだ。表向きは、井上が党内論議が未成熟であることを盾に難色を示し、石破がこれを「やむなし」とした形だが、物事にはあうんの呼吸というものがある。ここまで追い詰めておきながら、石破が独断で方針を断念することはあり得ない。むしろ井上の本音は「今国会だけは勘弁してくれ」であったに違いない。首相・安倍晋三にしてみれば、名を捨てて実(じつ)を取ればよいことなのである。19日に急きょ開かれる方向となった自公党首会談も前向きなものとなり、調整を加速させることになろう。与党内の論議を観察していると、公明党代表・山口那津男の「誤算」に起因しているところが大きい。
選挙に弱く衆院で2度落選している山口にとっては、創価学会婦人部が何よりの頼りである。その婦人部は安全保障は天から降り注ぐ「絶対平和主義」に凝り固まっており、勢い山口もそれを後生大事に守ってきた。山口は弁護士出身で、防衛政務次官も経験があり、党内では安全保障の論客の第一人者として通ってきている。したがって公明党は、山口の論理構成に頼らざるを得なかったのだ。ところが安倍の“決意”は並大抵のものではなかった。官邸サイドからは学会と公明党の癒着を憲法の「政教分離」の原則に反するとする声が出始め、首相側近からは「連立離脱するならご自由にだ」というけん制球も投げられるに到った。公明党内からは「国民に理解してもらえるのであれば、私は認めてもいいのではないかと思っている」(衆院議員・伊佐進一)という声も出始めた。一時は「『連立離脱はない』とは言っていない」とすごんでいた山口も、ついに「党が違えば政策も違う。その違いがあるからいちいち連立離脱が問題になるのでは、連立は組めない。合意を目指すのが大切だ」と折れるに到ったのだ。
要するに、安倍の決意が“不退転”であることを読み間違ったのだ。この山口の軟化を察知した自民党は、副総裁・高村正彦が私案を出して、「山口さんがずっと言ってきたことをたたき台にまとめた」とヨイショをした。石破も「今国会にこだわらない」と言い始めた。政治的な調整に関しては、自民党の方が一枚上手であることが明らかになったのだ。山口も“理路整然”と撤退できれば、それに越したことはないのだろう。こうして自公の調整は決着の方向が見えてきた。公明党が懸念している高村たたき台の「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある場合」の「おそれ」については、「切迫した危険」に変える方向だ。一方で「他国に対する武力攻撃の発生」との文言の「他国」に関しても、公明党の主張を入れて米国などに限定するため「密接な関係にある国」への修正の方向だ。いずれも集団的自衛権の行使限定容認の方向を変えるものではない。ただしホルムズ海峡などでの機雷除去作業については、安倍が極めて重視しており、公明党の反対論が強硬ならば「見切り発車もやむを得ない」(官邸筋)という声も出ている。
山口は18日テレビの収録で「従来の政府の立法解釈を大きく損なうことがないような結果を導き出すことが必要」としながらも、「協議する以上、エンドレスということはない」と語っており、もう無駄な抵抗はしない方向のようだ。こうして閣議決定のめどは立ちつつある。今のところ来月第一週の4日頃の閣議決定を目指すことになろう。この結果、昨年10月の日米外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で確認した日米防衛協力の指針(ガイドライン)の年末改訂には間に合う見通しとなった。また関連法案が秋の臨時国会に提出される見通しだ。民主党の左派など野党の一部は臨時国会でも反対する構えだが、みんなや維新の両党は賛成に回るものとみられる。この結果戦後史に残る安保政策上の大転換は実現する方向となった。
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