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2014-07-09 00:00
(連載2)転換を迫られているアメリカのイラク戦略
河村 洋
外交評論家
軍事的な観点に加えて、アメリカの戦略は政治的な観点からも追求されねばならない。サウジアラビア、ヨルダン、湾岸諸国といったイラクの近隣諸国はアメリカの「衰退」よりも非関与政策を懸念している。マケイン氏は厭戦気運に浸る国民に国際関与の重要性を説得するのが大統領のリーダーシップであることは、朝鮮戦争でのハリー・トルーマンを見てもよくわかると述べた。また、モスルの住民50万人が土地を追われ1,700人も処刑された事態を見れば、ISISはアル・カイダよりも危険なことから、アメリカのイラク支援は緊急の必要性があるとも訴えた。『フォーリン・アフェアーズ』誌のギデオン・ローズ編集員は6月21日放映のPBSニューズ・アワーでISISはあまりの残虐性にアル・カイダから破門されたほどだと述べている。現在、ISISは油田を制圧したうえに企業からも強引に税を徴収していることもあってアル・カイダよりも資金に恵まれている。さらにモスル制圧の際に銀行から資金と金塊を強奪している。
他方でシーア派の間ではイランの影が大きくなっている。アメリカとイランが協調するということもあり得るのだろうか?マリキ政権によるシーア派市民へのスンニ派反乱分子打倒の要請に呼応し、イランの代理勢力はシリアからイラク南部に移動した。マリキ政権はイランへの過剰依存に陥りかねない。そうした中でイランのアリ・ハメネイ最高指導者は、オバマ大統領が300人規模の派兵を公表した際に、イラクへのアメリカの介入を非難した。それはアメリカがマリキ首相に代わって誰かほかに人物を擁立しようという動きに対する警告だと受け止める観測筋もある。シリア、イラク、湾岸アラブ諸国へのイランの影響力は増大している。こうした事情に鑑みてジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係学院のカミール・ペスカスティング上級准教授にいたっては、「オバマ政権が事態への関与に消極的なことから、ニクソン・ドクトリンでそうであったように、イランが地域の憲兵を担う可能性さえある」と主張している。しかしキーン大将は「イランにはイラク西部の砂漠からISISを追い払おうなどという意志はさらさらなく、石油資源に恵まれた南部を抑えたいだけだ」と指摘した。よって、キーン氏はイランとの協調もこの国を地域安定の頼みとすることも無意味だと述べた。
国内と地域の勢力の交錯に加えて、マリキ政権がロシアから12機のスホイ25対地攻撃戦闘機を購入するとあって、事態は一層予断を許さなくなっている。イラクはアメリカからのF16戦闘機の引き渡しの遅延に不満を感じていた。イラクは2011年に18機のF16の購入で合意していたが、その内の最初が入手できたのは今年の6月に入ってである。オバマ大統領はさらに無人機を出動させて非戦闘任務に従事する米軍地上要員を防衛するように命令した。ロシア人教官がスホイ戦闘機とともにイラクに乗り込んできたことは、アメリカに対する挑戦を暗示している。さらにイランが1990年から91年の湾岸戦争でアメリカの空爆から自国に避難してきたサダム・フセイン時代の軍用機を一部返還するとの噂もある。そのほとんどはロシア製で、フランス製のミラージュF1も含まれている。問題はサダム・フセイン打倒後のイラク軍が兵器体系と訓練の面でアメリカ化されていることである。ソ連製のスホイ25を再配備したところで、イラク軍のパイロットが効果的に使いこなせるのだろうか?さらに旧ソ連製の戦闘機で地上の米軍特殊部隊と一体となって標的を絞った限定的な攻撃などできるのだろうか?
F16戦闘機とアパッチ・ヘリコプターの契約の件でも見られるように、オバマ政権はイラクの治安部隊が充分に強化される前に米軍を撤退させてしまった。マケイン氏は先の公開討論の場で「オバマ氏が大統領に選出されたのはブッシュ政権によるイラクとアフガニスタンでの長きにわたる戦争への反発からである」と語った。オバマ氏の非西欧的な思想とバックグラウンドは従来のアメリカに対するアンチテーゼである。現在の危機は外交政策の継続性を軽視した結果である。アメリカはイラクでの好ましからざる動向をキーン大将の提言に従って覆し、アフガニスタンでは同じ過ちを繰り返さないでいられるのだろうか?(おわり)
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