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2014-07-28 00:00
中国の「短期決戦で勝利」を封じるには
鍋嶋 敬三
評論家
中国の意図不明瞭な軍事力の急成長に対する懸念がアジア太平洋地域にますます深まっている。米国防総省が6月、議会に提出した「中国軍事力報告2014」では、人民解放軍の主な使命は、(1)不測の事態に短期決戦で勝利、(2)台湾以外に南シナ海、東シナ海も重点、としている。中国の対決型行動の典型として、2010年の漁船による日本巡視船への体当たり事件、懲罰的な貿易政策、ベトナム、フィリピン、日本への圧力などを挙げた。その軍事能力の増大と戦略的決定の透明性の欠如が地域の懸念の原因と分析している。一方、防衛省防衛研究所が2月に公表した「中国安全保障レポート2013」によれば、中国にとって危機管理とは「危機のエスカレーションを抑制しつつ」、しかし「同時に自国の利益を可能な限り追求」することであるとされている。
この20年間、米中関係はしばしば軍事対決に見舞われた。1994年の米空母キティホークと中国原潜による3日間におよぶ対峙や95-96年の台湾海峡危機、これを受けた米中軍事海洋協議協定の調印(1998年)以降も在ユーゴスラビア中国大使館誤爆事件、軍用機空中衝突事件、米艦インペカブル妨害事件と続く。中国は外国軍への妨害行為の主体を、海軍から国家海洋局の海監総隊(海監)などの海上法執行機関に移行させた。バックに控える海軍は直接手を出さないが、万一衝突が起きた場合は「相手が先に軍事的挑発をした」と責任を押し付ける構図だ。2009年の米音響観測艦インペカブルへの妨害事件が、尖閣諸島海域で領海侵犯を繰り返す中国の行動の参考になる。中国は情報収集艦1隻、海監と漁政の公船各1隻、トロール漁船2隻が妨害行為をした。至近距離から米艦の曳航ソナーを手繰り寄せる漁船員の写真がある(米海軍提供)が、普通の漁民が軍艦相手にこのような危険な行為はできない。軍事的な訓練を受けた偽装漁民の可能性は否定できない。
日中関係は、首脳会談を含め高度の政治対話ができない異常事態である。日中防衛当局間の海上連絡メカニズムの構築が、合意されていながら、運用されていない。「レポート2013」は海上衝突の第1次的当事者となりうる「海上法執行機関との間で事故回避のメカニズムの構築が喫緊の課題」と、その緊急性を訴えている。2国間の対立で動きが取れないだけに、多国間の枠組みも重要である。中国も参加する西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)(4月22日、中国・青島)では、火器管制レーダーを照射すべきでないことなど「海上衝突回避規範(CUES)」で合意と報道された。
軍事を含めた中国の対外活動は、共産党最高指導部の判断に基づいて実行される。尖閣諸島3島の国有化以降、急増した領海侵犯は、今年7月は延べ4隻(接続水域入域は延べ44隻、7月22日分まで公表の海上保安庁調べ)と比較的静かだが、中国指導部の政治判断次第であり、最近も自衛隊機に対する中国戦闘機の異常接近など中国の一方的行動による一触即発の状況に変わりない。日本としては、領土、領海、排他的経済水域(EEZ)を巡る危機管理体制の強化、日米、日豪など同盟国や友好国との連携を深めるとともに、8月上旬に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の多国間協議の舞台で積極的対話を通じて海洋での安全保障の具体策について、政治的合意を形成する努力をすべきだ。それが中国が「不測に事態」を利用して「短期決戦で勝利」への衝動に駆られないよう抑止する道である。
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