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2014-07-31 00:00
(連載4)集団的自衛権に求められる冷静な議論
河東 哲夫
元外交官
7月1日閣議決定の三つ目の柱は、自衛隊のPKO参加である。自衛隊は、1992年の「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(国際平和協力法)によって、PKOに参加可能となっている。その行動への縛りを緩めること、つまり武力の使用をもっと認め、「他の国の軍隊に守ってもらわなければならない日本自衛隊」という惨めな立場から少しでも脱すること、そして「多国籍軍」への参加も特別法を一々採択することなく、恒常的に可能なものとするということがある。「多国籍軍にはどうせ参加せざるを得ないのに、一々特別法を国会で通さなければならないのでは、そのたびに政局マターとなって大変だ。いつでも派遣できるように、しておきたい」というのが政府の魂胆だろう。今のオバマ政権は海外での軍事介入を嫌うので、今すぐ恒久法を作る必要はないかもしれないが、オバマの次の政権はどうなるかわからない。この多国籍軍への参加が、日本の世論の懸念を最も掻き立てるものだろう。「アメリカの戦争に巻き込まれる」、「アメリカの戦争に加わるために徴兵制を敷かれる」というわけである。
冷戦時代の日本外交をめぐっては、日本に対する脅威の実態とか、何をどう守るのかという、ごく当たり前の議論が欠如していた。1960年、そして1970年の安保闘争の後、国会では、安保政策の根幹よりも、言葉の枝葉末節に関する議論で政府の揚げ足を取り、それで審議を止めては自民党との取り引き材料にするという、閉塞したやり方が数十年もまかり通った。そのあげく2009年、民主党が政権を取ると、長い間逼塞していた左翼・反米主義者達が若き頃の夢を実現する最後のチャンスとばかり、鳩山政権を対米関係再考の方向に引っ張り、対米関係を流動化させて、政権の基盤も崩してしまう。
そして安倍政権では、これも戦後の平和主義の中で長く逼塞していた保守派がチャンス到来とばかりに声を上げ、自衛隊の海外派兵のフリーハンドを獲得しようとしている。この保守の声は、かつて左翼・反米主義者達が自分達の政権を引きずりおろしてしまったのと同じように、安倍政権の足を引っ張りかねない。極端な立場は右であれ、左であれ、政権を孤立させる。集団的自衛権の話は、バランスの取れたものでなければならない。そして安倍政権から距離が遠く、特ダネが取れない一部マスコミも、「集団的自衛権=徴兵制」という極端な見方を広めて、政権を引きずりおろそうとしている。これもひどい話だ。あれだけ戦争をやった米国でも、ベトナム戦争の後では徴兵制は廃止されているのである。そして現代の装備は高度技術化が進んでいて、徴兵制を必要とするような「歩兵」的存在は少数化しつつある。尖閣で戦闘があったとしても、地上兵力として派遣できるのはせいぜい1000名内外で、それも「徴兵」してきたような新兵ではとても使い物にならない。「集団的自衛権、即徴兵制」とはならないのである。
むしろ、集団的自衛権の問題で政府の手を縛れば、日米同盟は米国にとって片務的性格が強いものに止まり、日本を守る義務の遂行にも気が乗らないことになる。何度も言うが、その場合、日本は自主防衛力を強化しなければならなくなる。自主防衛、つまり日米同盟を破棄すると、日本はロシア、中国だけでなく、米国に対しても防衛体制を整えざるを得なくなる。それは自衛隊を大軍にすることを意味する。つまり、この方がよほど憲法違反、そして徴兵制につながり得るのである。日本のマスコミは戦前、朝日新聞に至るまで戦争支持になっていた。今回も、戦争に反対して、結局戦争をおびき寄せてしまう愚を冒すことになるかもしれない。(おわり)
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