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2014-08-11 00:00
津守滋氏の「ポストモダーン国家」論に触発されて
西尾 亘
会社役員
津守滋先生の本欄8月7日付のご論文「日本はモダーン国家か、ポストモダーン国家か」に触発され、以下、拙論を披露させていただければと思います。「ポストモダーン」段階に至った日本や他の先進民主主義国が、依然「モダーン」段階にとどまるロシアや中国、あるいは北朝鮮といった国々にいかに対処するか、という問いは、おそらく21世紀の国際政治の本質的な問題であると思われます。かりに「モダーン」段階を、主権国家に行動の自由を無条件に認める段階と定義し、「ポストモダーン」段階を、主権国家にしかるべき行動の自由を認めつつも、同時に国際社会のコモンセンスを遵守する義務を課す段階と定義しましょう。ここでいうコモンセンスとは、基本的人権・民主主義の擁護、武力による国際紛争解決の禁止などが含まれます。このコモンセンスは、人類社会が長い長い年月を経て、ようやくたどり着いた価値的境地であり、なんとしても守らねばなりません。上で「21世紀の国際政治の本質的な問題」と申し上げた理由はまさにここにあります。
さて、「ポストモダーン」国家からみれば、「モダーン」国家は、そのようなコモンセンスを無視し攪乱する困った存在といえます。なんとかせねばなりません。しかし、ここにあるジレンマが生じます。それは、「ポストモダーン」国家が、「コモンセンス」なる価値を共有する「価値共同体」の一員である以上、その価値を損なう手段・方法にて「モダーン」国家に対抗することはできない、しかし、「モダーン」国家はそのようなことは意にも介さず、「モダーン」的手段で挑んでくる、というジレンマです。津村先生が、一方で、「中国の膨張主義や北朝鮮の核による脅威に直面して、日本が軍事面を含めて対抗策をとるのは当然である」とおっしゃり、他方で、「(ポストモダーン的、平和国家たる)日本の先進性は、他国の模範となるべき財産である。もし日本がこの貴重な財産を忘却して、一昔前の対立抗争の時代に沈潜するならば、それはヘーゲルの言う『province』(フランス革命で切り開かれた世界から取り残された地域)の地位に逆戻りすることを意味するであろう」とおっしゃっているのは、おそらくこのようなジレンマを意識してのこととお見受けします。
もっとも、戦後日本が世界に先んじて「ポストモダーン的、平和国家」となったという点については、それはかなりのところ東アジアの特殊な国際環境があったからこそ可能であったというべきであり、果たして他国に範を垂れる資格があるかどうかは一考を要するのではないでしょうか。ただし、ここではこの問題に立ち入ることは差し控えたいと思います。いずれにせよ、われわれはこのジレンマをなんとか解決せねばなりません。ここで鍵となるのは、そのような「モダーン」国家に対して用いるべき対抗手段の性質、すなわち物理的強制力の是非をめぐる問いでしょう。いうまでもなく「ポストモダーン」国家には、自衛権行使以外の武力による国際紛争解決は許されません。ひらたくいえば「戦争」はできないのです。しかし、一般的にいえることですが、ある特定の価値やルールを最終的に守る手段としては、なんらかの物理的強制力は残しておかなければいけません。これは、スポーツの試合に退場などのペナルティがあり、あらゆる国家に警察権力があるのと同じことです。
言い換えれば、「ポストモダーン」国家が形成する価値共同体は、その価値を損なう「共通の敵」に対しては、警察権力に通じる、ある種の物理的強制力をもって対処する必要があります。それは時として軍事力を伴うこともありうるでしょう。しかし、これは「モダーン」国家同士が繰り広げる「戦争」とは異なる性質の活動ととらえるべきものです。このような物理的強制力すら否定してしまっては、価値共同体はその存在意義すら失いかねません。津村先生が結論的に「中国がpost-historicalの時代に移行するまで、険しい道のりが控えているのであれば、日本の対中政策は、その道のりの地ならしを手伝うことに目標を定めるべきである」とおっしゃる点については、まさにそのとおりだと思いますが、価値共同体の一員たる日本としては、その際にも、国際社会のコモンセンスに照らして、是々非々をもって毅然とした態度をとるべきではないでしょうか。そしてそれは中国に限らず、ロシアや北朝鮮など他の「モダーン」国家に対してもいえることです。と書いていたところで、米国がイラクに空爆をしかけた、との速報が入ってまいりました。さてこのアメリカの行動をどうとらえるか。拙論にとって、恰好のケース・スタディーとなりそうです。
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