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2014-08-18 00:00
「世界の警察官」に復帰する米国
角田 勝彦
団体役員、元大使
昨年9月10日、シリア問題に関する演説で「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べたオバマ米大統領は、本年8月8日「イラク軍を支援するために、必要があれば限定的な空爆を行うことを私は承認した」との緊急声明を行った。スンニ派の過激派組織「イスラム国」の攻勢から米国人を保護する意味が強調されていたが、他の理由付けは人道危機への対処である。すなわちイスラム国が「ジェノサイド(大量殺人)」を図っているとされるクルド系少数派ヤジディー教徒の救援である。「世界の警察官」としての活動再開と見て良いだろう。
最近、本論壇で「ポストモダーン国家」に関するいくつかの興味ある論考を拝見した。軍事介入を極力避けているオバマの今回の苦渋の決断は、軍事力と経済力を中心とするパワー依存・自国中心の「モダーン」から「ポストモダーン」への大きな流れの存在を示すものではないだろうか。なんどか投稿したとおり、私は歴史認識として、第二次大戦後、世界で数百年に一度の大変容(ニュールネサンス)が生じていると見ている。基本は、近・現代(モダーン)の基礎となったウェストファリア体制の変更(国家主権の不平等化と内政干渉容認、国際レジームの強化)及び資本主義体制の変化(世界一体化と知本主義へ)である。国際関係が変化した以上、核戦争などが起こって歴史の歯車が逆転しない限り、中小国はもちろん大国といえども、いわゆる「モダーン国家」として変化の枠外にとどまることは出来ない。事実、国連安保理常任理事国として自国の意に沿わない決議には拒否権を行使できる5大国でも、「ポストモダーン」的理屈により自国の主張の正当化を図っている。
もちろん「ニュールネサンス」の推移は直線的ではない。とくに1989年のソ連・東欧圏崩壊による冷戦終焉から現在までの時期においては、米国の動きを中心に「モダーン」への回帰すら説かれた(例えば「新しい中世」論)。すなわち、1989年唯一の超大国となった米国のブッシュ(父)大統領は「新世界秩序」構想を呼びかけ、1992年フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」を説いた。しかし1993年のソマリアにおけるPKOの失敗以降、国連の役割が後退し、米国の『新世界秩序」構想は崩れたのである。さらに2001年の9.11テロ、2008年のリーマン・ショック及び近年の中国など新興国の勃興は、多くの論者をしていまや「多極化」や「無極化」の時代の到来さえ示唆させるに至った。国家以外のアクター(ITで結びついた大衆を含む)も力を増している。2期8年務めたブッシュ(子)のあと2009年大統領になったオバマは、2010年イラクから米軍戦闘部隊を撤退させ、16年末にはアフガンからの撤退を予定している。また財政難もあり、国防費を2013年度から5年間で2590億ドル減らしつつある。
米国民の意識も変わった。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの本年7月4日の調査によると 米国を「超大国」と思っている人の割合は2011年の38%から2014年は28%まで急落した。米国の内向き志向を反映したとみられる。米国は依然他の諸大国に遙かに勝るパワーを保持している。その国益のためにも、また平和、法の支配、民主主義、人権、国際通貨の安定、自由貿易のためにも、各種国際レジームの保持などの国際公共財提供の意思を完全には失っていない。幸い米国を含む諸大国間の経済的相互依存関係は強化の一途を辿っている。衝突が各国の国益を害することは十分理解されている。このような状態に於いて米国が「世界の警察官」の役割に復帰していくことは「ポストモダーン」と「ニュールネサンス」の進展に役立とう。
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