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2014-08-22 00:00
財政削減下での米国防政策の「再建」
河村 洋
外交評論家
2013年の財政支出強制削減はアメリカの国防に長期間にわたる甚大な影響を及ぼそうとしている。オバマ政権は予算に関して議会と合意に至れなかったが、こうした悪影響を克服することが至上命題となっている。世界の安全保障が不安定化を増す中で、国防予算とバードン・シェアリングは9月4日から5日にかけて開催されるNATOウェールズ首脳会議で重要議題に含まれている。現在、イギリスとフランスなど一部を除くヨーロッパ同盟諸国のほとんどでは、国防費はGDPの1%前後である。これは消極的平和主義を標榜していた古い日本とほとんど同水準である。西側同盟の間で広まっている国防支出削減症候群を逆転させるには、アメリカが悪名高き財政支出強制削減から国防を立て直さねばならない。チャールズ・クラウトハマー氏のような保守派の論客からは「アメリカの衰退とは選択がもたらすものだ」との声も挙がっているが、国防予算の問題はその典型的な事例である。よって、アメリカが財政支出強制削減を乗り越えられるかもっと注視すべきなのである。
大国志向を強める中国、帝政時代さながらの拡大主義に走るロシア、イスラム・テロが広まるイラクとシリア、その他にイランや北朝鮮のように新たに台頭する脅威に鑑みて、アメリカは自らの国防を再建しなければならない。統合参謀本部長のマーティン・デンプシー陸軍大将がまとめた『4年ごとの国防計画見直し』(QDR)では「国防総省は財政支出強制削減の致命的な影響によってアメリカ軍が全世界での任務をこなすにはあまりに小さく時代遅れなものになるのではないか」と懸念している。QDRはアメリカの安全保障を脅かす問題を評定し、予算の制約を乗り切るための戦略的リバランスと構造改革をどのように行うかを示している。また「財政支出強制削減がこれ以上行なわれればアメリカの国防上の任務に制約が課されるようになってしまう」と記している。
2014年QDRに対し、連邦議会が運営するアメリカ平和研究所(USIP)というシンクタンクの国防委員会は、ウイリアム・ペリー元国防長官とジョン・アビザイド元アメリカ中央軍司令官を共同議長に据えて財政支出強制削減の悪影響を逆転させるために『アメリカの強固な国防力を将来にわたって確実にする方策』(Ensuring a strong US Defense for the Future)と題する報告書をまとめた。この超党派の報告書は国防政策に携わる者達の間で多大な注意と関心を引いている。同委員会は「QDRには財政支出強制削減を乗り切る長期的な方策が示されていない」と主張している。また、国防総省と議会の和解も推奨している。さらにこの報告書では「どれほど効率化を進めても、結局は軍事力の規模が大きくなければいけない」と主張している。非常に注視すべきは、この委員会の委員達は他の国防政策関係者以上に技術的な優位の揺らぎに懸念を抱いていることだ。
2010年のQDRではイラクとアフガニスタンの戦争が中心に記されていたが、2014年のQDRでは21世紀の国防の優先課題、すなわち本土防衛、国際安全保障の構築、そして海外への戦力投射に注目している。USIPの報告書はQDRには基本的に同意しているが、現行の国防予算には懸念を述べている。この報告書は「財政支出強制削減に対処できなければアメリカの軍事戦略が実行不能に陥るリスクが高まる」と警告している。しかしアメリカはどのようにして国防を救済すべきだろうか?7月31日の議会ではバック・マケオン下院軍事委員長が「国防授権法の適用によってQDRの改訂を促すべきだ」と主張した。国防委員会の委員達は「現行の予算不足では軍事的能力にも規模にも悪影響がおよぶ」との見解で一致しているが、それがどれほどのものか見通しは不透明である。しかしアメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任研究員は「8月の休会を前にした議会はUSIPの報告書によって超党派のイニシアチブを示し、1兆ドルにも上る恐るべき歳出削減を逆転させようとしている」と述べている。それは2011年度の予算管理法を無効にし、ロバート・ゲーツ国防長官(当時)が2012年度向けに示した基本的な方針に戻そうという動きである。
この報告書を出した国防委員会の委員でもある共和党のジム・タレント元上院議員は「バラク・オバマ大統領が憲法第4条に『合衆国は各州を侵略から守る』と記されている役割を全うしようというなら、最新のQDRではまだ不充分である」と述べている。不充分な予算では国防戦略の実施には非常に大きな制約が課されてしまう。そうなればアメリカの同盟諸国は自分達の戦略を再考しなければならない。9月に再開される議会での国防予算の議論には大いに注目すべきである。
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