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2014-08-25 00:00
米中関係に「戦略的競争の罠」も
鍋嶋 敬三
評論家
南シナ海・海南島の東方220キロの公海上空で、米軍の対潜哨戒機に中国軍の戦闘機が異常接近した事件(8月19日)は、中国をはじめ6カ国・地域が島しょの領有権を争う南シナ海問題への米国の介入を拒絶する中国の強硬姿勢を示したものだ。高速の戦闘機が米軍機の6メートル先をかすめるという曲芸飛行は、2001年4月の米中軍用機衝突事件以来、最も危険な状況を再現した。中国機は、3、4、5月と連続して米軍機に、また6月には東シナ海で自衛隊機に、それぞれ異常接近した。このように続く軍事的挑発は中国指導部の政策的意図に基づいた行動と見る外はない。中国は米国に「新型の大国関係」を認めさせようと躍起だが、自身の独善的行動によって、双方の思惑の違いが浮き彫りにされる結果を招いている。
米国は米中戦略・経済対話、軍同士の関係強化を進めてきただけに、事件の衝撃は大きい。中国は南シナ海のほとんどの海域を古代から中国の主権が及んでいるとして、「九段線」と呼ばれる恣意(しい)的な線引きをして管轄権を主張している。国際法上そのような線引き、また国連海洋法条約(UNCLOS)の下で領土主権に基づかない海洋の権利主張は認められない。米国は中国の力による一方的な現状変更の動きを強く批判してきた。南シナ海は世界の船舶輸送の半分を占める重要な海上交通路(シーレーン)であり、その戦略的重要性は言うまでもない。
米国にとって悩ましいのは、南シナ海が米中対決の場になりかねないことである。2001年の事件では乗員24人が拘束され、解決に1ヶ月を要した。オバマ大統領の特別補佐官を務めたJ・ベーダー氏(ブルッキングス研究所上級フェロー)は、この半年前に米国が抱える矛盾を指摘していた。中国の主張に対し真っ正面から立ち向かうと、中国のナショナリズムやパラノイアを強く刺激し、より攻撃的な行動を招く。他方、米国が弱い態度を取れば、中国との紛争当事国からはオバマ政権のリバランス(再均衡)政策があざけられ、米国の影響力がひどく損なわれる、というわけである。これを解決するため同氏は(1)国際法の下で九段線の拒否を明確にするよう、紛争当事国だけでなく東南アジア諸国連合(ASEAN)のシンガポールやタイにも求める、(2)ASEANと中国の間で拘束力のある行動規範(COC)の交渉を促進する、(3)南シナ海に新たな防空識別圏(ADIZ)を設けないよう中国を説得する、などの方策を挙げ、静かな舞台裏の外交を提唱した。
ケリー国務長官は8月13日、ハワイでアジア太平洋外交を総括する政策演説を行ない、中国との「新型の大国関係」について「思い違いのないようにしたい」と前置き、「語るだけでは生まれない」「スローガンや勢力範囲の追求では実現しない」とくぎを刺した。「航行や飛行の自由は大きな国の特権ではない」と、中国をけん制もしたが、異常接近事件はその1週間後に起きた。それが北京からの回答だとすれば、習近平政権がもくろむ「新型の大国関係」は絵に描いた餅に終わり、米中関係は目指す建設的な協調とは裏腹の「戦略的競争の罠(わな)」(オバマ大統領)に陥る危険が高まるのは避けられないだろう。
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