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2014-08-28 00:00
日中首脳会談の実現性強まる
杉浦 正章
政治評論家
元首相福田康夫の8月27日の講演内容についてメディアはありきたりの報道しかしていないが、大新聞のニュースセンスを疑う。発言を詳細に分析すると、7月末の福田と中国国家主席・習近平との会談は事実上アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談実現への道筋をつけたものであることが分かる。とりわけ重視すべきは、福田がこれまで中国が「尖閣棚上げと靖国参拝せず」を首脳会談の前提条件としてきたことにこだわらないかについて、「(習近平は)おそらくそのことについては異存はない」と言明したことだ。これにより会談実現の方向が一段と強まった。問題は儀礼的なものにとどまるか、将来にわたって日中関係改善の土台となるものとなるかだ。水面下での外交折衝にかかっていると言える。福田の講演は都内で開かれ、福田・習近平会談について司会者との間で詳細なやりとりが展開された。まず福田は習に日中間の現状打開の気持ちがあるかどうかについて「そういう気持ちを持っているから私と会った」と肯定した。次ぎに福田は日中を取り巻く情勢について「欧米には日中が戦争に突入すると指摘する人が多い。国際社会から危険視されている状況を先延ばし出来ない。日本外交の危機であると同時に日本全体の危機だ」と強調。その上に立って、首脳会談の実現性について、「私が思っているような危機感を持っていれば、会わなければならないと思う」と予測した。「危機感は向こうも同じようなものを持っている」とも述べた。
さらに福田は中国が主張している尖閣問題棚上げ論について「これは議論して決着がつく話ではない。だからこのことに触れたら、いつまでたっても話し合いは進まない。そのことを条件にしたら首脳会談も出来ない」と首脳会談のテーマとすることを否定した。加えて「私の考えの基本が大事と考えたら、そういうことはマイナーなことだ」と戦争の危機を回避するためには尖閣も靖国もマイナーであるとの見方を示した。「習にマイナーであると伝えたか」との問いに、福田は「ええ」と肯定して、「会談の中身については申し上げるわけにはいかないが、それが分かるようになっている」と微妙な回答をした。どのようにして「分かるようになっている」のかを推察すれば、会談で面と向かって話さなくとも、別途メモなどで立場を明らかにしたか、安倍が託したメッセージの中にそうした内容が含まれているか、のどちらかであろう。
そして極めて重要な発言は、尖閣と靖国を首脳会談開催の前提条件としないことについて「おそらくそのことについては(習近平に)異存はないと思う」と言明したことだ。司会が再び「条件とすることにこだわる感じはないのか」と念を押したのに対しては、深くうなずいた。おそらく福田は習に対して安倍のこれ以上の靖国参拝はない事を伝えている可能性が高いから、「異存がない」の核心は、靖国ではなく、尖閣の棚上げに習がこだわらないことを言わんとしたのであろう。この福田発言全体を総括すれば、(1)習は現状を打開したい気持ちがある、(2)尖閣棚上げについては少なくとも首脳会談開催の前提条件にはしない、という立場が鮮明になってくる。福田は事前事後に安倍に対して会談内容を報告しており、安倍も中国を刺激する言動を避けるようになってきた。8月15日の終戦記念日の靖国参拝もしなかった。7月下旬の福田・習会談は、膠着した日中関係に突破口を切り開いた感が濃厚である。
会談後中国側は対日軟化の姿勢を維持している。8月9日には日中外相会談が1時間にわたって開かれ、初めて公式ルートでの対話らしい対話が実現した。注目すべきは、訪中した「日中次世代交流委員会訪中団」に急きょ副主席・李源潮が18日に会ったことだ。会談で李源潮は「小異を捨てて大同につくことが日中双方に求められている」と言明している。これは明らかに日中復交交渉で首相・周恩来が「日中両国には、様々な違いはあるが、小異を残して大同につき、合意に達することは可能である」と発言したことを意識したものであろう。暗に日中復交の原点に帰って、関係改善を図ることを呼びかけたものともいえる。こうして安倍政権発足以来難航に難航を重ねた日中関係は、打って変わって一陽来復の兆しが生じ始めたことになる。両国関係が依然累卵の危機にあることは変わらないが、この兆しを育て発展させてゆくことが、日中双方の首脳に求められる課題である。福田の功績は大きい。
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