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2014-09-02 00:00
(連載1)「プーチンの訪日」にどう対応すべきか
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
日本はG7と共に対露制裁に加わり、ロシアは日本に強い不快感を示した。こうして本年4月以後の日露外相会談や外務省の次官級会議は延期となった。またロシアはこの8月に北方領土で、安倍首相の強い抗議にも拘わらず軍事演習を行った。さらに、8月22日にはロシアは日本の制裁への対抗措置として、複数の日本人の入国を禁止した。この流れから考えて、予定されていたプーチン大統領の今秋の訪日はほぼ不可能と見られていた。しかし8月25日に突然ラブロフ外相は、「大統領は日本に招待されてそれを受けれ、日本側はこの訪問の時期を確認した。ロシアはウクライナの紛争を、対日関係と結びつけていない」と述べ、予定通りの大統領訪日を示唆した。日本を試す態度だ。これに対して26日に菅官房長官は、訪日の日程は何ら決まっていない、日本の国益の観点から総合的に考慮して検討すると述べた。その後もロシアはウクライナ東部に軍や武器を送り、世界の非難を浴びている。「日本とは仲良く」というロシアの「曲球」に日本はどう対応すべきか。
プーチンが安倍首相の日本招待を受け入れたのは、今年2月上旬のソチでの日露首脳会談の時だった。しかし2月下旬以後、ウクライナの政変に続いてロシアのクリミア併合やウクライナ東部への介入等が生じた。これに対して世界の大部分の国は、国際法に違反してウクライナの主権を侵したロシアを厳しく批判している。欧米は対露制裁を次第に強めてきた。この状況の中で日本がプーチンを招待した場合、それは国際政治面では何を意味するか。また、世界はそれをどう見るか。まず、3つのポイントについて考え、日本としてこの「曲球」にどう対応すべきか、結論を述べたい。
ラブロフは、日露関係やプーチンの訪日は「ウクライナの紛争とは関係ない」と宣言した。この状況でわが国がプーチンを招待するなら、「日本はウクライナ問題と関係なくロシアとの関係を進める」と世界に宣言することになる。これは「ロシアによるクリミア併合は明らかな国際法違反であり、力を背景とした現状変更は決して容認できない」という安倍首相の発言(3月23日)とも、また日本の対露制裁の姿勢とも矛盾する。たとえ日本政府が、「対露関係が複雑な状況だからこそ、話し合いは必要だ。日本はウクライナ問題に関しても話し合うためにプーチンを招いた」と述べても、世界は言葉通りには取らない。ラブロフが述べるように、プーチンは安倍首相とウクライナ紛争について真剣に話し合う積りはないからだ。ロシアは日本を、ウクライナ問題の当事国とも見ていない。したがってオバマ大統領やメルケル首相と異なり、この問題でプーチンは安倍首相とは電話会談すらしていない。最近欧米の首脳がプーチンと会談をしているが、それはウクライナ紛争を「問題にする」ためだ。しかし、わが国が予定通りプーチンを招いて首脳会談をすれば、それとは逆に、日本は「問題にしない」とのシグナルになる。
今年の8月12日からロシアは、択捉、国後など北方領土で特殊部隊等1000人以上と最新兵器や無人機などを投入した大規模な軍事演習を行った。13日に安倍首相がこれを「到底受け入れられない」と厳重抗議したのに対して、ロシアは「自国領内での演習」だとして首相の抗議を無視した。日本では報じられていないが、じつはその翌日の14日、プーチンは力で併合したクリミアを訪問して現地で次のように演説した。「すべてのパートナー諸国が理解すべきことがある。それは、ロシアは主権大国として国益保護のためにあらゆる手段を行使するし、その中には軍事力も含まれる。」(『独立新聞』2014.8.15 巻末資料参照)。主権侵害に対する安倍首相の抗議の翌日に、プーチンは隣国の主権を侵して併合したクリミアで、「ロシアの主権を軍事力で守る」との演説をした。そのこと自体、国際法の愚弄であり日本への侮辱と言える。(つづく)
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