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2014-09-06 00:00
日中首脳はまず「不測の事態」回避で合意せよ
杉浦 正章
政治評論家
内閣改造後首相・安倍晋三にとって待ったなしの外交課題は対中関係改善となりそうだ。北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会に日中首脳会談が開催される可能性が強まっているからだ。開催された場合安倍は、問題を一挙に解決しようとせず、スモール・ビギニングの対応でいくべきだ。のどに刺さった骨である尖閣諸島の領有権問題は、踏み込めば激突しかない。ここはあえて凍結して、“先送り”し、喫緊の課題である軍事的「不測の事態」回避に焦点を絞るべきだ。双方が「一歩退く」ことにより、経済、文化、環境技術などの交流を深め、和解への“実績”の積み上げを図るべきだ。あの中国国家主席・習近平の言葉かと我が耳を疑った。習は初めて制定した9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に当たって、「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明したのだ。その一方で習は「中日友好とアジアの安定という大局を守る立場から、歴史問題を適切に処理し、平和発展の道を歩むべきだ」「我々は軍国主義の復活を決して許さない」と歴史認識問題も強調したが、これは明らかに付けたりの常套句であった。
習は「中日関係発展を望んでいる」のであり、明らかに就任以来口を極めて対日批判を繰り返してきた態度を変えつつあるのだ。これを裏付けるように、中国は公船による尖閣海域への進入も過去半年間、徐々にではあるが減少しつつある。対日姿勢好転にむけて明らかにメッセージを送り始めているのだ。この変化の背景を分析すれば、まず北京でのAPECを11月10日に控えて外交方針の転換を迫られたに違いない。中国の南シナ海、東シナ海への進出はASEAN諸国の反発を招き、これが5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」での孤立を招いた。一方で首相・安倍晋三が展開している中国封じ込め外交はオーストラリアやインドなどの大国も含めて、理解され、実を結びつつあるのが現状だ。このままでは習近平が主催する就任以来最大の国際会議であるAPECは、成功裏に推移しない恐れが出てきたのである。
次ぎに習は汚職摘発という権力闘争に勝利を占め、国内政治基盤を固めつつある。これが外交上のフリーハンドへとつながっている。さらには日本の対中投資が激減しており、のっぴきならぬ大気汚染問題は日本の技術を必要とする。経済上の関係改善は不可欠となりつつあるのだ。加えて日本側の対中外交打開への模索も効果を上げつつある。元首相・福田康夫の習近平との会談は関係改善にプラスに作用した。中国の神経を逆なでしている安倍の靖国参拝も、福田によって、これ以上は行わない方針が伝わった公算が高い。内閣改造に伴う党役員人事では親中派の谷垣禎一が幹事長に、二階俊博が総務会長に就き、副総裁・高村正彦と共に自民党執行部は「親中シフト」が敷かれた形なのである。こうした日中双方の変化が、APECで何らかの形で“結実”する流れを生じさせていると見るのが自然であろう。それでは今後2か月の間でどのような展開を見せるかだが、外交当局が秘密裏に接触を続けて首脳会談で急浮上させる方法と、日中外相が国連総会などの場で会談し、調整をするなどの方法が考えられる。おそらく両方が混在する形で接触が進むものとみられる。
加えて、対中シフトの自民党執行部も、早期訪中するなど側面から関係改善に努めるべきである。中国が主張する(1)尖閣問題は係争中であることを認め棚上げする、(2)首相の靖国参拝は行わない、の2点のうち、靖国参拝について、安倍はこれ以上行わない意向だ。支持者への公約は1度果たせば良いことであり、2度、3度行うことでもない。焦点は「係争中の尖閣棚上げ」を認めるかどうかだが、棚上げは、領土問題の存在を認めることになり、不可能であろう。日中両首脳がこの問題を会談で直接的に言及すること自体が、会談の意味を喪失させてしまうのである。従って、首脳会談でこの問題を取り上げることは不可能に近いと思われる。それならどうするかだが、喫緊の課題のコアの部分は日中が軍事衝突するという「不測の事態回避」にあることは言うまでもない。中国が尖閣に侵入しなければ、日本も出て行くことはないし、スクランブルも必要は無い。緊急時における海上連絡メカニズムは既に事務当局間で出来上がっているという。従ってトップレベルで不測の事態回避の合意に持ち込めれば、まず日中間の緊張は解ける。これを突破口として経済、文化、環境、観光などの交流推進を確認すれば良い。そして尖閣問題は当分凍結を確認して、取り上げないことだ。学者などによる研究の場を設置して両国で長期に研究するシステムでも出来れば上々だ。
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