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2014-09-09 00:00
TPPが駄目でもメキシコがある
河東 哲夫
元外交官
8月、メキシコに行く機会があった。そこで遅まきながら気の付いたことは、日本にとってのメキシコの重要性だった。TPPが駄目でも、メキシコで生産すれば、北米、EUに無税でものを輸出できる。律儀な労働者が多数いるメキシコは、「中国+1」の対象国として、ASEANをしのぐほどの将来性を持っているということである。TPPの年内妥結は、11月米国での中間選挙の結果にかかるところ大で、まだ時間がかかるだろう。米韓FTAが既に成立していることもあり、日本の輸出産業にとってはTPPの成立が待たれるところだが、仮にTPP妥結に時間がかかることとなっても、メキシコを対米輸出の基地とすれば、TPPとほぼ同じ効果が得られる。と言うのは、メキシコと米国の間には1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効しており、日本とメキシコの間で2005年EPAが結ばれたことで、日本企業は部品・機械を無関税でメキシコに持ち込んだ上で組み立て、これを米国、カナダに無関税で輸出ができることになっているからである。
メキシコはEUとも2000年に自由貿易協定を発効させているので、メキシコで生産すれば無関税でEUへの輸出も行える。そしてメキシコは中南米諸国とも自由貿易、あるいは特恵関税の枠組みを有している。日本企業はこの可能性に以前から気が付いており、2005年EPA締結以降、対メキシコ直接投資を急増させている。2012年にはその総額は約1000億円で、日本はメキシコに対する主要な投資国となっている。メキシコは中国、ASEAN諸国と比べると政情が安定し、治安も比較的良いものがある(地域差があるが)。人口は日本と同等で、しかも低所得青年人口が多いため、工場の労働者確保に困ることはない。
中部で操業を開始したばかりのマツダ自動車工場を見学する機会があったが、その際次のことに気が付いた。(1)工場に近いグアナフアトという古都(これ自体、素晴らしい観光資源なのだが)へ往来する飛行機乗客の3分の1以上が、同地周辺に立地する日本企業に勤務するとおぼしき日本人であった。(2)インフラもかなり整っている。ハイウェー網は整備されているし、鉄道も投資不足が指摘されているものの、マツダは工場に長い貨物列車を引き込み、北米、そして大西洋岸の港向けに出荷している。日通がこの分野に進出している。(3)労働者(インディオ、ないしインディオと白人の混血のメスティソが多い。他方、管理部門には白人が多かった)は律儀で言われたことはしっかりやるそうだ。その点「自分で考えて手順を省く」中国人労働者より安心できるだろう。なお、マツダ自動車工場労働者の30%は女性。女性の方が定着率が高いという利点もある。(4)目下3000名も現地で雇用しており、その経済効果には大きいものがある。但し部品産業は現地にはないに等しいので、日本から子会社を連れてきて、工場敷地内で操業してもらっている由。これなら、中小企業でも進出しやすいだろう。
自分が話してみたところでは、メキシコ人自身、北米、そしてEUに対する輸出基地として、中国にとって代わり得る可能性を、自覚している。またメキシコは中国に対して大きな貿易赤字を有しているため、中国は消費財を売りつけるだけで、製造業への直接投資をすることがない、自分のことしか考えない国と見ている。
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