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2014-09-16 00:00
「新しい脅威」と「伝統的脅威」の併存する世界
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
2001年9月11日の米同時多発テロから今年で13年がたった。今年は、9月10日にオバマ大統領が、「イスラム国」を打ち負かすためにシリア領内の拠点を空爆する用意があると発表し、時期を同じくして、ロシアによるウクライナ侵攻への対応をめぐり、NATOが集団防衛というその存在意義に立ち戻りつつある。こうした動きは、現在のグローバルな安全保障環境を象徴している。9・11を受け、テロのような非国家主体、ならず者国家による脅威、大量破壊兵器の拡散といった「新しい脅威」への対応を中心に据えた「新しい安全保障」論が勢いを得た。これからの安全保障は「脅威基盤」ではなく「能力基盤」であるという戦略論が喧伝された。「距離的に離れていても、ハイテクで軽量な兵力を、危機が起こっている地域に迅速に投入することが重要である」というラムズフェルド理論がもてはやされた。しかし、イラク戦争の行き詰まりとともにこれらの「新しい安全保障」論は、衰退していった。テロ、ならず者国家などに重点を置く余り、従来の大国やそれに準ずる国々によるパワーポリティクスを閑却してきたというのである。
しかし、ブッシュ政権の後を継いだオバマ政権は、米国民に広がる厭戦気分も背景にあったことは確かだが、米国の対外関与に極めて消極的と受け取れる政策をとり、「新しい脅威」にも、大国による「伝統的脅威」にも十分な関心を示さず、双方からの脅威を高める結果となった。前者はテロや中東の騒乱であり、後者は、ロシアによるウクライナ侵略、中国の好戦的姿勢などである。国際社会は「新しい脅威」と「伝統的脅威」のどちらを重視すべきか。いささかナンセンスではあるが、敢えて問うとすれば、後者の方が長期的にはより深刻な問題であると言ってよいであろうが、短期中期的には「イスラム国」への対応も不可欠である。さらに、オバマ政権が前者への対応を怠ったことが、中露両国に「米国には対外関与の意志なし」との誤ったメッセージを送り、事態をいっそう悪化させた側面を否定できない。その意味では、この両者は必ずしも相互に無関係とも言えない。そして、それに加えて、米国の国防予算の削減という厳しい制約がある。これが、9・11から13年を経て明確になった、グローバルな安全保障環境のごく大雑把なあらましであろう。
我が国は、こうした状況下でどう振る舞うべきか。アジア太平洋では「新しい脅威」と「伝統的脅威」の比較で言えば、後者をより重視すべきである。ところが、米国の関与は「アジア回帰」とは言ってはいるが、全く不十分なものである。日本が米国の役割を丸ごと肩代わりすることなどは到底望み得ないが、米国が「イスラム国」との戦いに力を割かなければならない以上、日本が肩代わりすべき役割は当然増えることになる。自助努力を高め、地域においては利害を同じくする国々との間で、安全保障面を含む協力を一層推進すべきであり、地域にとどまらずグローバルに、国際法の支配、自由主義、民主主義、人権といった価値観の共有を進めていかなければならない。
その点、安倍総理の「地球儀俯瞰外交」は適切であるが、明確に国際法に違反した行動をとるロシアに対して甘いと言える姿勢をとっているのは重大な誤りである。「地球儀俯瞰外交」のような取り組みは、しばしば日本のマスコミの報道で言われるような、単なる対中牽制ではなく、日本を含む西側諸国にプラスとなるグローバルな安全保障環境を下支えする意味がある。そして、日本の努力は、ポスト・オバマの米国の世界戦略、日米関係にとっても貴重な財産となろう。
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