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2014-09-19 00:00
韓国は「史経分離路線」にかじを切った
杉浦 正章
政治評論家
韓国外交が対日融和に大きくかじを切りだした。その基調は「歴史認識」はさておいて、「経済文化交流重視」という流れだ。端的に言えば「史経分離路線」である。突然“軟化”し始めた原因はどこにあるかと言えば、一にかかって大統領・朴槿恵が日中、日朝関係の進展で極東での孤立をひしひしと感じ、米国の圧力もあって渋渋ながら方向転換せざるを得ないと気付いたことにある。主たる事情は日本側にはない。これが意味するところのものは、我慢比べに首相・安倍晋三が勝ちつつあるということだ。かねてから政府高官は「韓国は捨てておけばいい」と漏らしていた。「捨てておいても向こうから音を上げてくる」ということである。案の定韓国は“折れて”きた。それも日中関係改善を追い越しそうなスピードなのである。今思えば顕著なターニングポイントは8月の光復節における朴槿恵の発言だ。2015年が国交50周年になることをとらえて「来年を両国民が新しい未来に向う出発の年としたい」と表明したのだ。
朴槿恵自身は基本的な立場は変えていない。依然慰安婦問題について「被害者らに謝罪し、名誉を回復出来るよう日本の指導者は勇気ある決断をして欲しい」と述べている。しかし、みっともない“言いつけ外交”で、各国首脳に同調を求めることはこのところ控えている。韓国政府全体の動きをボディーランゲージ的に捉えれば、ここに来て修復への流れが一挙に出てきたのだ。まず外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)が変わった。「変わっていない」と言いながら変わった。尹は9月14日「韓国はもともと歴史問題と他の分野を結びつけていない。経済、文化、国民の交流は積極的に支援したい」と発言したのだ。誰が見ても結びつけていたと思うが、ここに来て「史経分離」を唱え始めたのだ。こうした基本路線の上に、外務当局の接触も活発化する流れとなった。19日には2か月ぶりに東京で日韓局長級会議が開催され、10月1日には外務次官級による戦略対話が開催される。対話は、韓国側が日本側に開催を打診し、両政府が日程調整を続けていたものだ。政治家レベルの接触も動きだした。
元首相・森喜朗が19日から訪韓して、朴槿恵と会談する。森は安倍の親書を携えてゆく。おそらく11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会に安倍との会談を実現する流れを作ることを目的としている。場合によっては安倍と朴は来週ニューヨークで各国首脳が気候変動問題について話し合う「国連気候サミット」のなどの場で接触の機会がある可能性が出てきた。少なくとも挨拶程度はするに違いない。こうした韓国側の急変の原因はどこにあるのだろうか。一つは極東における孤立をひしひしと感じ始めたのであろう。明らかに中国は北京APEC成功に向けて対日関係是正へと動いている。日朝関係は、拉致問題で急進展しかねない要素を秘めている。中東やウクライナ情勢で手一杯の米国は、極東の安定を強く望んでおり、日韓関係改善で朴に対して「相当な圧力をかけている」(政府筋)といわれる。3月に朴を無理矢理安倍と会談させた大統領オバマのメンツもかかっているのだ。朴は不承不承ながら方向を転換せざるを得なくなったのだ。
さらに韓国経済の問題がある。アベノミクスを契機に日本が円安路線を取り始め、これが輸出に頼る韓国経済を直撃しているのだ。おりから日本の嫌韓ムードは横溢して、観光客は激減している。韓国世論も日本との経済関係改善の主張が高まり始めており、放置できない段階にまで到っているのだ。「歴史認識ではメシを食っていけない状況となったのは事実」(日朝関係筋)ということなのであろう。韓国政府はあきらかに朝日の慰安婦強制連行取り消しで激昂した日本の世論もみて、歴史認識での「壁」を認識したのであろう。こうして韓国の駐日大使・柳興洙が「日韓関係は少しずつ氷が溶けてゆくような雰囲気」と述べる事態となってきたのだ。日本側としては、この流れを事実上の「慰安婦問題棚上げ」へと結びつければ良いことになる。官房副長官・加藤勝信が朴の慰安婦への謝罪と名誉回復要求に対して「日韓の間で請求権問題は既に終わっている」とにべもない見解を返したのも、その辺を読んでのことだろう。対韓外交は歴史認識でこれ以上譲歩をすべきではないし、譲歩をすればますます要求を高める国民性を理解した対応が正解だ。
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