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2014-09-22 00:00
海のシルクロードは「トロイの木馬」か?
鍋嶋 敬三
評論家
中国の習近平国家主席のインドなど南アジア歴訪(9月中旬)は、自国が面していないインド洋においても大国としての存在感を増したい意欲の表れである。エネルギーや資源を求める中国は中東・湾岸地域やアフリカへの影響力を強めようと積極的に首脳外交を展開している。インド洋周辺諸国に港湾拠点を築く「真珠の首飾り」戦略は、モルディブとスリランカ訪問で一段と進んだ。中国が進める欧州への「海のシルクロード」計画で港湾や橋、道路などのインフラ整備は、軍事的な観点から見れば極めて重要な意味を持つ。この2カ国は地理的、歴史的に密接な関係のあるインドの「裏庭」であり、中国の増大する関与はインドへの強力なけん制になる。
習政権のインド洋外交は、安倍晋三首相が進めるインドと周辺諸国との関係強化に対抗する面がある。インドのモディ首相は就任後初の主要国として日本を訪問(8月30日~9月3日)、事実上の国賓待遇を受け、共同声明では「特別」の「戦略的グローバル・パートナーシップ」をうたった。日本からは2013年11月の天皇、皇后両陛下、今年1月の安倍首相のインド訪問と、急速に関係が進展している。モルディブからは4月にヤーミン大統領が国交樹立以来初の公式訪日、安倍首相は9月上旬にバングラデシュとスリランカを歴訪したばかりだ。インドにとっては巨大化する中国は無視できない。習主席の訪印中ですら中国軍の侵入が伝えられ、共同声明で国境紛争の早期解決を「戦略目標」と位置付けるほど、緊張状態が続く。
それでも中国は国連安全保障理事会の常任理事国入りを熱望するインドへの「理解と支持」を示すなど、日本とは差をつけた対応でインドの歓心を買うことを忘れていない。インドも習主席の訪問直前にムカジー大統領が中国の「裏庭」であり、南シナ海で激しく対立するベトナムを訪問、防衛、エネルギーでの協力強化を確認して中国をけん制するなど、巧妙なバランス外交を展開している。日本人の新婚旅行の人気スポットであるモルディブは人口わずか33万人。淡路島の半分ほどの小国に世界第2の経済大国の国家主席が初めて訪問したのはなぜか。
そこから約1200キロ南のインド洋の真ん中に英領ディエゴガルシア島がある。島全体が住民のいない軍事基地であり、太平洋、中東、アフリカ、欧州に至る作戦を支援する米軍最大の軍事拠点だ。実はここは横須賀の在日米海軍司令部の支援施設である。4000メートル級滑走路があり、湾岸戦争やイラク戦争ではB―52戦略爆撃機やB2ステルス爆撃機が発進した。中国の「真珠の首飾り」の狙いは米軍事戦略の要であるインド洋を扼(やく)することにあるのだろう。「海のシルクロード」計画は中国のインド洋への影響力拡大を隠すギリシャ神話の「トロイの木馬」と、インド政府関係者は警戒している。安倍首相が7月のオーストラリア訪問で両国関係を准同盟の水準に高めた。インド洋は中国対日米印豪による角逐の海になりつつある。
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