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2014-09-27 00:00
(連載1)NATO、ロシアの脅威を正面から直視へ
河村 洋
外交評論家
去る9月4日から5日にかけて開催されたNATOのウェールズ首脳会議は、ウクライナ情勢を反映して「グローバルNATOからヨーロッパ再重視へ」の転換点となった。いわば、今回の首脳会議はポスト冷戦時代の終結を象徴するものだった。8月初旬には、ウェストミンスターで下院が「NATOの戦略的重点はイラクとアフガニスタンでの反乱分子掃討からロシアを念頭に置いた国家間の抑止力に移るべきだ」との報告書を公表した。ジャーマン・マーシャル財団パリ研究所のアレクサンドラ・ド・ホープ・シェファー所長は「プーチン政権によるウクライナ侵攻がNATOのレゾン・デートルを再定義した」とまで述べた。ヨーロッパ同盟諸国はウクライナがNATOの加盟国ではないにもかかわらず、バラク・オバマ大統領がロシアの危険な拡大主義を阻止するという明確なメッセージを発信したことを歓迎した。NATOはウラジーミル・プーチン大統領が突きつける難題を乗り越えるため、東欧諸国防衛に第5条を適用すると再確認した。そこで首脳会議の議題と同盟の行方について述べたい。
最重要議題はウクライナ情勢であった。今年2月のクリミア危機より、ロシアの意を受けた勢力が親露派の蜂起を促してウクライナ東部を不安定化している。ウェールズ首脳会議の直前にロシアの意を受けた勢力の侵攻によってNATO加盟国の間では警戒が高まった。9月5日にウクライナと親露派の間で停戦が結ばれ、その後にロシア軍が撤退したものの、プーチン政権は巧妙なプロパガンダによって西側民主主義の弱点を利用している。プーチン氏は欧米の厭戦世論を背景に、あれはロシアの意を受けた勢力ではなく現地の分離主義者達だとの欺瞞を述べている。平和主義者達はそうした虚言を唯々諾々と受け入れている。しかし反体制派「もう一つのロシア」を率いるミハイル・カシヤノフ元首相は9月4日放映のBBCインタビューで「クレムリンがウクライナ侵攻のために派兵した」と証言している。よって西側はロシアに対して平和主義的な希望的観測に基づいて行動すべきではない。NATOは加盟国に対するプーチン政権の攻撃に第5条を適用すると宣言した。これは『フィナンシャル・タイムズ』紙の9月6日付けビデオでは「ゲームを劇的に変えるものではないが、NATOは東欧の防衛に軍事的な準備ができている」と通告したのであるとしている。
欧米が現在のNATO加盟国域外でロシアの勢力拡大を食い止めるには、さらなる行動が必要である。プーチン政権はウクライナ東部での駐留兵力規模を削減したが、依然として残留する1,000人ほどの兵力が撤退することは考えにくい。停戦合意から2週間ほど過ぎた9月21日、NATO最高司令官のフィリップ・ブリードラブ空軍大将は「停戦合意など名目上に過ぎず、クリミアの再軍事化が重要な懸念事項だ」と述べた。実際にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はクリミアでの兵力増強はロシアの最優先事項だと言っている。ロシアの手強い軍事的プレゼンスとクレムリンの支援を受けた分離主義者を前に、オバマ大統領はウクライナのペドロ・ポロシェンコ大統領に4600万ドルの軍事援助を供与しただけで、しかも相手側が必要だと訴えていた対戦車兵器や無人機ではなく、防護服、エンジニアリング備品、哨戒艇を提供したに過ぎない。それでは意味はなく、上院外交委員会は2015年分で3.5億ドルの軍事援助でロシアに対抗するよう要求している。欧米はウクライナへのさらなる支援を模索する必要がある。
ロシアの侵攻に対応してNATOは東欧諸国に第5条を適用するための即応部隊の創設を宣言した。この合同部隊は4,000人規模で48時間以内に配備される。国防総省報道官のジョン・カービー少将は「それはロシアに対して重要なメッセージを発したことを念押しするためだ」と述べている。アナス・フォー・ラスムセン事務総長は「新しく創設される即応部隊には、指揮命令系統の改革、ロジスティクスの刷新、同盟諸国間での情報共有が必要である」としている。英国王立国際問題研究所のケア・ジャイルズ研究員は「NATOはこうした前線部隊の創設が単なる宣言にとどまらないことを示すとともに、ロシアの拡大主義を阻止するためにさらなる行動に出るべきだ」と評している。いわばウェールズ宣言は始まりに過ぎない。(つづく)
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