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2014-09-28 00:00
(連載2)NATO、ロシアの脅威を正面から直視へ
河村 洋
外交評論家
どのような宣言も政策も充分な国防費の裏付けがなければならない。プーチン氏がナショナリストの姿勢を強めたのは現在のウクライナ危機よりもはるか以前からである。しかしNATO加盟諸国はポスト冷戦期に、ヨーロッパどころか世界規模でも安全保障上の懸念などまるでないかのように国防費を大幅に削減した。ヨーロッパに国防費の増額を促しているアメリカは、オバマ政権が議会対策に失敗したために、財政支出強制停止に直面している。従来からの脅威に加えて、NATOはサイバー攻撃に対抗する準備も必要となっている。28ヶ国の首脳はウェールズ首脳会議で国防費の増額に合意した。問題は各主権国家のレベルで合意がどのように実行されるかである。加盟国の間で国防政策が整合していなければ即応部隊も充分に効果のあるものとはならない。
ウェールズ首脳会議はNATOがヨーロッパを最重視する転機となったが、欧州大西洋域外の脅威も増大している。イスラム過激派の台頭は当初からの議題ではなかったが、ウェールズ首脳会議主催国イギリスのデービッド・キャメロン首相は、バラク・オバマ大統領とともに多国間の連携を呼びかけた。問題はその目的である。共和党のアダム・キンジンガー下院議員は「対ISIS作戦は、彼らの封じ込めのためか、破壊のためか」を質疑で問いかけている。オバマ大統領は依然として地上軍派兵に消極的なため、あいまいな態度しか示していない。ISISについてはウェールズ首脳会議の最終宣言で言及されたが、多国間の連携はフランスやアラブ諸国といった有志の主権国家に頼っている。キャメロン首相自身は前回のシリア空爆をめぐる議論のような議会の否決を乗り越えねばならない。プーチン政権のウクライナ侵攻がなければ、アフガニスタンがウェールズ首脳会議の最重要議題となっていただろう。ISAF(国際治安支援部隊)は今年の末までに撤退するが、欧米の関与は引き続き必要である。NATO首脳会議を前に現地の治安は悪化した。ラスムセン事務総長はアフガニスタン政府にアメリカとのBSA(二国間安全保障合意)とSOFA(地位協定)に出来るだけ早く調印するよう要請している。
ISAF撤退後のNATOの関与の三本柱は断固とした支援任務、持続的なアフガニスタン国軍建設への貢献、そしてアフガニスタンとの長期的な政治協調の強化である。こうしたコンセプトも、実行を伴った裏付けがなければならない。NATOはアフガニスタンへの軍事援助を41億ドルから2014年以降は51億ドルに増額した。文書に示された宣言と政策の他に、文書には記されない同盟内部の政治動向も注視すべきである。トルコの欧米再回帰はきわめて重要である。2002年にレジェップ・エルドアン党首のAKP(公正発展党)が政権に就いて以来、トルコはケマル主義を離れてイスラム主義志向の内政および外交政策を追求している。しかしエルドアン氏の長年にわたる政策助言者であったアフメット・ダウトール首相は、隣国シリアでの戦争を抱える現状から欧米との関係修復に乗り出した。シリア内戦によってアサド政権を支援するイランとの関係も悪化した。トルコはムスリム同胞団勢力がエジプト、リビア、シリアで力を失ったために、イスラム主義の仲間も失った。トルコがISISに対抗してクルド人を支援したためにイラク中央政府との関係も緊張した。
トルコの欧米回帰は世界の安全保障にも重大な影響を与える。日本は、安倍晋三首相がエルドアン氏と会談した際に、NATOの機密情報を敵対勢力に漏洩させかねない中国製の防空ミサイル・システムの購入はやめるよう説得している。公式の宣言では国防費の増額に言及しているが、重要なのはそれがどのように使われるかである。NATOは2つの要求を満たす必要がある。それはロシアそして可能性としては中国を相手にした新「冷戦」、そして中東の反乱分子を相手にした非対称な戦争である。国防費の増額だけでは必ずしもこうした要求を満たすことはできない。同盟諸国の間で国防政策がうまく噛み合わないと諸事は効果的に運ばないのである。(おわり)
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