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2007-01-18 00:00
クーデター後のタイの経済成長戦略
四条秀雄
不動産業
アジア経済危機後の危機管理リーダーとしてのタクシン首相が、急速な情報通信革命に乗っての2000億円といわれる巨額の資産形成を背景に、王制に挑戦した結果、今回の軍部クーデターを招いたのだと思われます。クーデターの先行きは予断を許しませんが、私は基本的にはこの反動を好ましいものと考えています。できればもっとルールに従った形でタクシン外しが成功すれば良かったとは思いますが。
私がタクシン路線を好ましくないと考える理由は、(1)時代の成り行きで一代で巨額の資産形成をした者が、数世代の積み重ねを経た王制に挑戦するのは好ましくない。(2)日本がタイへの投資を集中する理由は、天皇制の連想から来る権威の安定を期待するためである。(3)タクシン首相の時代は、アジア経済危機後の特異な時代であり、このような時代のリーダーは、往々にして新たな危機を生み出し、また、安定の時代に向かない。(4)高度成長路線は、人・モノ・金の再配置がダイナミックになり、成功は難しい。成功するには、軍事政権か、相当に統制のキツイ政治体制で無いと難しい。社会全体の人・モノ・金が大規模に動く様子は軍事的動員と同じです。
日本の高度成長は、マルクス主義の影響を受けた日米の官僚・学者が産業連関表などのツールを駆使して経済的資源をかなり計画的に動員した一面がありますが、結局今に至っても政府の市場への介入癖は直りません。韓国の高度成長は日本に倣ったものでしたが、やはり軍政から民政への移行に際してマルクス主義の影響が強く残りすぎ、失敗しつつあります。中国に至っては、歴史的国際的な流動性の過剰を伴ったグローバリゼーションに乗った見掛けだけの高度成長であり、おそらく産業連関表なども使わない野放図な動員ともいうべきものです。中国の成長については、地方の成長率を合計すると国の成長率より高くなるなど、整合性に問題があります。上海のビルの多くは、実需を伴っていないために、実際に利用できないビルが多く、将来は資産価値が大幅に低下するだろうと言われています。
個人的に、クーデター以前のタイについては少し危惧を抱いていました。高度成長でかつ王制に挑戦する彼の路線は失敗する可能性が高い、と考えていました。彼の失脚でタイの成長が停滞するとしても、その方が望ましいだろうと思います。日本の経験を振り返ってみても、高度成長はとても難しい過程であると思います。たぶん日本や韓国や台湾や中国などのように、30年近く高成長を持続するのは特別なのだと思います。挫折する危険が大きく、副作用が大きく、多くの国々が数年で失敗しています。
クーデター後のタイの経済戦略は、軍事政権や統制型経済戦略ではなく、標準的な成長を息長く持続する戦略をとった方が良いと思います。その柱は、(1)人・モノ・金の再配置を自然に誘導するような豊富な情報流通社会の形成と(2)腐敗に対してもっとも有効である情報公開制度の確立、の二本立てであるべきでしょう。この二つを守る限り、成長はその文化に沿った形で自然に促されるはずです。タクシンの対中FTAなどを通じた自由化と高度成長の組み合わせは、人々が各々自分がどこに向かって進んでいるかの情報と自覚と意欲がないと、ただバンコクを目指すという大規模な盲動を生み出すでしょう。これは現在世界中のどこでも起きている現象です。メキシコ人はアメリカを目指し、アフリカ人は欧州を目指す。タイでもバンコクや日本を目指す動きになったでしょう。豊かな情報があれば、人々の動きは多様になり、バンコクへの移動は緩和される。FTAと高度成長を目指す前に、タイ社会内で水平に豊かに情報を流通させる必要があります。タイ人がタイ人に教えるプロセスを踏まないといけないでしょう。
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