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2014-10-14 00:00
日本は世界の成熟国家の見本を作れ
松井 啓
大学講師、元大使
冷戦構造が崩壊した際には世界はグローバル化により安定と繁栄に向かうと期待されたが、国家間の格差、国内的には中間層の縮小、貧富の格差の拡大、若年層の失業の増大により既存政権への不満が噴出している。米、欧、中国、アジアや南米新興諸国の経済成長に陰りが見え始めている。欧米基準の民主主義と市場経済は開発途上国の一般市民には必ずしも安定も幸福ももたらさないことが明白となってきた。世界全体の人口は2014年には72億人、2050年には96億人と推計されており、後進諸国が十分な食糧を確保し、生活水準を向上させるには、石油・ガスなどの化石燃料、森林、水資源、鉱物資源等次世代の資源を先取りせざるを得ず、最近の気象現象を見ると、地球温暖化は着実に進んでいるように感じられ、このままの速度での経済成長は持続可能なのか懸念されている。
日本は「失われた20年」後も経済の低迷は続き、格差は拡大する傾向にある。少子高齢化は続き、国の社会保障支出は増大する一方、原発の稼働が停止しているためエネルギーは大部分を輸入化石燃料に頼らざるを得ず(自然エネルギー率の急速な拡大は困難)、カロリーベースの食糧自給率は先進国で最低の39%に留まっているので、円高と相まって輸入支払いは増大している。他方、交通インフラの整備などにより東京の生活は益々便利快適となり、地方からの、特に若い世代を吸収し、東京一極集中はむしろ強化され、農村部の高齢化、中小都市の空洞化を促進し、中央との格差が拡大している。日本の失業率はヨーロッパに比べれば低いものの、中小企業や非正規社員の実質賃金が低下していると報じられている。
アベノミクスは経済成長を高めるため女性の活用や地方創生を掲げ、様々な「矢」を放ってきている。それに水をかけるつもりはないが、最速、最大、最多の生産・消費システムを推進することが最大多数の最大幸福を生むのか、一歩立ち止まって、日本社会のあり方について再考すべき時期に至っているのではないだろうか。日本人の間に「もったいない」という意識は薄くなり、買わなくても済むものを買わせ、必要でないものを消費させ、使い捨てを助長し、浪費を加させる生活様式を変える必要があるのではないか。
そのための痛み分けは甘受せざるを得ないが、少消費、低速ではあるが安定的経済成長、弱肉強食ではない品格ある社会、中央・地方を問わず、老若男女を問わず、個々の人間にも自然環境にも、また身障者にも外国人にも優しい日本国家を創生し、先進成熟国としてのモデルを示せれば、世界全体の資源の効率的利用、環境汚染の抑制などの国際益、世界益、将来益にも繋がるものと期待する。日本国民は一定の目標が設定されれば団結して努力する「プロジェクト人種」である。2020年の東京五輪までの日本再生5カ年計画を立て、五輪が終わっても失速しないようなロードマップを策定することを提唱する。
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