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2014-11-03 00:00
日本橋に青空を取り戻そう
松井 啓
大学講師、元大使
日本は1868年の明治維新(第1の開国)から近代化、富国強兵をスローガンに列強の競争に参加したが、明治維新から77年後の1945年アジア太平洋戦争の敗戦後(第2の開国)は、経済発展優先の道を歩んだ。1964年(戦後19年)には第1回東京オリンピックが開催され、「日本列島改造論」の経済成長推進と東京オリンピックの交通渋滞を避けるために首都高速が前年の1963年(昭和38年)に建設された。首都高速は近代建築のシンボルとされ経済の高度成長に大いに貢献した。しかし、50年以上を経た首都高速は老朽化しコンクリートの一部は鉄筋がむき出しになり、破損落下物防止の覆いがしてあるところも見える。第1回から56年を経て第2回目の東京五輪が2020年(戦後75年)に開催されることとなっている。首都高速は今後何年も持ちこたえることができるのだろうか。
ヨーロッパ諸国の首都、例えばロンドンやパリの都心に高架の高速道路が走っているのを想像できるだろうか。東京は歴史と情緒と深みのある首都とすべきである。特に観光の人気スポットの一つである日本橋を覆っている2本の高速道路は、由緒あるこの橋や周りの景観と調和しておらず、醜悪ですらある。日本橋は1604年(慶応9年)に東海道などを含む五街道の起点と定められ、現在の橋が架けられた1911年(明治44年)に日本国道元標が橋の中央に埋め込まれ、日本の道路網の原点となり、1999年(平成11年)には重要文化財に指定されている。
日本は2010年経済大国の座を中国に譲り、成熟時代に入った。経済成長の停滞、少子高齢化による財政負担の増大などの諸問題に直面し(日本病)、その解決の帰趨がヨーロッパ先進国からもアジア等の新興国からも注目されている。2020年の東京五輪を第3の開国として先進成熟社会の見本を示す契機とすべきであり、特に首都高速については、経済成功に貢献したがその役割は終了したとして、大幅改修するのか、撤去・転用すべきか等について検討する時期に至っている。その際に少なくとも日本橋を覆う高速道路は取壊して、記念写真には高速道路ではなく青空が見える観光スポットとすべきである。この機会を逃したら首都高速の議論は先延ばしになり「ゆで蛙」になってしまうであろう。
かつて景観を損ねるとの批判もあり、高速道路の地下トンネル化の経費が試算されたが、5千億円との高額のため議論が沙汰止みとなったとの記録もある。この試算額に変わりがなければ、尖閣諸島買収のための基金(14億円余と聞いている)を転用しても焼け石に水である。幸いにしてアベノミクスを追い風として民間で都心の種々再開発計画が立てられているようである。日本橋周辺も景観と融和したオフィス、商業施設、ホテルや宿泊施設、大使館などの外国公館、住宅や文化施設、緑地等の建設、環境、省エネ、観光客や身障者にも配慮した総合的計画を官民共同で作成し、資金を結集して、日本橋に青空を取り戻せないだろうか。品格ある東京、四季の変化に富んだ「美しい国」の創生は道路元標のある日本橋からスタートすべきである。2020年の東京五輪マラソンは、日本橋から出発する(運営上困難ならこの橋を渡る)コースとすれば、「再生日本」を世界に向けて大いにアピールできよう。東京都のイニシアチブに期待する。
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