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2014-11-25 00:00
日本はウクライナ紛争解決の仲介役となれ
松井 啓
大学講師、元大使
自由、民主主義、人権、法の支配、市場経済が整っていなかったロシアを先進国サミットに参加させることには日本はもともと消極的であったが、クリントン大統領時代の1997年米でのサミットにエリツンイン大統領が招かれG7からG8となった。しかし、本年3月24日ハーグでのG7サミットで、クリミヤ半島併合を理由にロシアを追放したことは拙速であった。ロシアをG8内に留めて、解決のための対話を継続すべきであった。マレイシア航空撃墜の原因不明のまま、独立を求めるウクライナ東部2州を廻る紛争は続いており、米欧もロシアも正面からの軍事力行使は避け制裁合戦を続けている。今まで経済制裁が成功した例は少なく、経済のグローバル化が進み、相互依存関係が深化しているので、首の絞め合いを続ければ、世界経済全体が窒息してしまう恐れがある。我慢比べをすればロシア人は窮乏に耐える国民性があるが、西側民主主義諸国では市民の制裁支持は長続きせず、また各国によりロシアとの関係が異なるので、団結に綻びも出てこよう。
他方、チベットやウイグルで自由も民主主義も認めず、人権を抑圧している中国は、中東情勢の悪化やアフガン情勢の不安定化などのなかでも旗色を鮮明にせず、海洋権益や開発途上諸国での経済権益の拡大を進めている。ウクライナを廻る膠着状態が続けば、中国に漁夫の利を与えることになるが、それは是非とも避けるべきである。「懲罰し、孤立化」させるためにロシアを共産党独裁の中国と同列に追いやることは止めるべきである。プーチン大統領にとっては、クリミヤ半島のウクライナへの返還に応ずることは歴史的経緯、住民の意思、軍事的重要性から見て、自己の威信に係わるので応ずることはないであろう。ドイツのメルケル首相はプーチン大統領と事態打開のため接触しているが、他方、両国間でスパイ容疑の外交官追放合戦が始まった。このような事態が続けば、冷戦再現の恐れもある。欧米とロシアの双方の面子を救い、「引き分け」に持ち込ませる役割は、G7メンバー中ではウクライナ紛争に直接関係のない特異な存在である日本のみができることである。
日本はこれまで遠方のアフガニスタン支援のために東京で支援会合を何回か開いた。ウクライナに対しても既に金融支援を表明しているが、東京でウクライナ安定化ための国際会議を主催することは、安倍首相の地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交の新たな展開となろう。ウクライナのEU・NATOへの組み込み、ウクライナの治安強化支援、東部2州の独立あるいは連邦制等、硬軟様々のアイデアが出されている。ヨーロッパ安定のためには、地政学的に強大国の狭間にあるウクライナを東西の緩衝地帯として注意深く維持するしかなく、寒い冬が来る前に(ロシアは今までにも西欧へのウクライナ経由パイプラインによる天然ガスを外交カードに何度も使っており、11月24日にはウクライナへの石炭輸出を停止した)、日本から「ウクライナ支援会合」を呼びかけ、非難や制裁ではなく、現実的な話し合いのきっかけとしてはどうだろうか。ロシアはG8の枠組み無しでも、国連安保理事会やG20、BRICS等での活動の場があるとうそぶき、中国との関係親密化も誇示していたが、先般豪州でのG20では孤立に耐え切れずに、プーチン大統領は予定を切り上げ、帰国した。対話による解決によりG8に復帰することは、ロシアの望むところであろう。
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