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2014-11-28 00:00
中国は超大国になれるか?
鍋嶋 敬三
評論家
「中華民族再興の夢」を追って拡張主義の軍事外交路線を走る習近平政権の中国は、アジアで米国をしのぐ超大国(Superpower)になれるのか?改革開放政策による急激な経済成長と軍事力増強を進め、第二の経済大国として躍進する一方、経済格差の拡大による社会不安の激増、近隣諸国との海洋紛争など内政、外交にわたる緊張要因を抱える。米議会の超党派の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」が11月20日公表した報告書で米中関係について、習政権は「緊張のレベルをさらに高め、対決姿勢を続ける」と予測した。防衛省防衛研究所の2014年版「東アジア戦略概観」(3月)も「習近平指導部の外交方針は非妥協的な側面が強まっている」と分析、習外交がアジアの緊張の主要な要因になっているとの見方では日米とも一致している。
米報告書は中国の急速な軍事力近代化とともに、米国の財政危機による軍事費削減の影響で、アジア太平洋の米中軍事バランスが中国有利に動いていると指摘。中国の対米戦略の特徴は「米国が東アジアの同盟国を捨てて中国に対して宥和政策を取るか、それとも同盟国を守ることによって中国との潜在的な紛争に直面するのか」の選択を迫るものだとしている。日中間の領土紛争は「地域の最も危険な発火点の一つ」と位置付けた。中国は25年間、軍事費の二桁増で弾道ミサイルや巡航ミサイルの増強を続けた結果、グアムを含むアジア太平洋地域の米軍基地を脅かす能力を備えた。今後5年間の核戦力強化で中国が軍事・外交政策の幅を広げ、特に日本に関しては米国の「拡大抑止」を弱める可能性があると警告した。東アジア、西太平洋地域の地政学的な変化で「米国の基本的な利益が危うくなっている」と警鐘を鳴らしたのである。
これに対して、同時期に出たオーストラリアと米国の国際政治学者であるP・ディブ、J・リー両氏の共著論文「なぜ中国はアジアで支配的勢力にならないか」(Security Challenges 誌)は中国の内政、経済、軍事、外交の弱点を分析したもので興味深い。両氏は「中国大国論」は急速な経済成長が続き、軍事力が米国と比肩するとの前提に立っていると批判、急速な経済興隆が永続する必然性はほとんどなく、軍事力は米国に遅れを取り続けると主張する。国営企業偏重の経済運営、経済格差の拡大などのほか、一人っ子政策の後遺症である少子高齢化の急速な進展で「国全体が豊かになる前に老齢化する史上初の経済大国になる」と予告。さらに格差拡大で社会不安が悪化、経済成長が国家の不安定を鎮めるどころか悪化させたと、国内統治のぜい弱性を指摘した。
中国のアキレス腱は重要な軍事ハイテク分野で少なくても20年は米国に遅れていることだという。米国で中国軍人によるサイバースパイ事件が摘発された背景もそこにあるだろう。中国は外交的にも「アジアで孤立した新興国」と描かれている。友邦と言えるのは北朝鮮とパキスタンくらいで、東南アジアの多くの国がますます中国への懸念を強めて米国に接近している、とみている。中国が超大国になるには、これらの問題の克服が前提になるということだろう。アジア太平洋地域安定のカギは米中関係の安定にある。中国は米国に「新型の大国関係」を認めさせようと躍起だ。しかし、米国の対中関係は同盟国や友邦の利益の犠牲の上に立つものであってはならない。米報告書が48項目におよぶ議会への勧告の中で、日本の集団的自衛権の行使に向けた努力への支持を表明、また米豪同盟の価値を強調したのは同盟関係強化のメッセージとして至当である。
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