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2014-12-13 00:00
(連載2)アメリカと世界を危険にするオバマ外交
河村 洋
外交評論家
上記のような国際安全保障環境において注目すべき点は、オバマ政権がシリアでの化学兵器濫用を阻止するレッドラインを実行できなかったことの影響で、それはこのことでアメリカは世界各地の危機に対処するうえでの弱さだと解釈されているからである。ロシアによるウクライナ侵攻は典型的な事例である。さらにケーガン氏は「日本からサウジアラビアやアラブ首長国連邦のような湾岸諸国にいたる同盟諸国も、オバマ氏が同盟諸国にとって近隣の敵となる中国、北朝鮮、イラン、ISISに対して宥和姿勢であることに不安を募らせている」と強調した。アメリカの指導力に対する疑念が高まれば世界平和にさらなる痛手となる。
民主主義は弱体化し、ルールに基づいた世界秩序は専制国家によって踏みにじられている。これらの論点はケーガン氏がこのイベントや自らの著作で行なってきた議論の中核を成している。明らかに、オバマ氏がアメリカの指導的地位に信念を抱いていないことが世界をますます危険にしている。こうした議論への反論として、スローター氏は賛成派に対して「オバマ政権でなければ世界の安全保障環境はもっと良好だったのか証明せよ」と要求してきた。しかしバーチャルな世界を見る方法がない以上、スローター氏の発言は無意味である。政治は数学でも哲学でもないのである。しかしオバマ氏が国家安全保障の専門家の意見を無視するという致命的な誤りによってイラクとシリアで過激派による暴虐を許してしまった。ロシアとのリセットはプーチン政権を勢いづけた。これが及ぼした波及効果を否定することはできない。
しかしスローター氏は冷戦後の世界について重要な問題提起をした。それは民間企業、市民社会、個人など非国家アクターの台頭である。スローター氏は「このように複雑化する世界では、アメリカの指導力は軍事的手段を通じて行使されるよりも、むしろ国連及びその関連機関に基盤を置くべきである」と主張した。また「貿易と投資に関する協定、中でもTPP(環太平洋パートナーシップ)の方が全世界で展開される軍事行動よりもアメリカが今世紀も優位を保つうえで重要になる」と強調した。ザカリア氏はさらに「軍事介入が非常に大きな失敗をもたらすだけで、アメリカの価値観と国益のためにはなっていないのは、ベトナムの経験からも明らかで、国連やブレトン・ウッズ体制の方がアメリカの指導力発揮を容易にし、反米感情を弱めるうえで貢献を果たしている」と述べた。しかし世界におけるアメリカの指導力について軍事的な側面を過小評価することは全くの誤りである。反対派の論客はアメリカが世界の警察官として軍事行動をとることに関して否定的だったが、ケーガン氏は「スローター氏自身がアサド政権からのR2P(保護する責任)のため、シリアへの軍事介入を訴えていたばかりか、イラク戦争直前にもサダム・フセインに対する開戦を支持していた」と指摘した。
さらにスローター氏とザカリア氏が訴えかけたようなカント的な外交は、ケーガン氏とスティーブンス氏が主張するようなホッブス的な外交によって強化されることを、私は訴えたい。まず1946年のイラン危機について言及したい。それは当件が国連安全保障理事会に持ち込まれた最初の事件だからである。周知の通り、ヨシフ・スターリン麾下の赤軍は第二次世界大戦後もイラン北部に駐留し続けた。ソ連軍が撤退したのは国連決議のためだけではなく、米英両国との軍事的衝突になる危険があったからである。スターリンは力の真空を埋めるだけの軍事的対抗勢力がなければ、東ヨーロッパでも日本の北方領土でも勢力拡大と領土強奪の機会を逃さなかったことを忘れてはならない。今日ではウラジーミル・プーチン氏がスターリンさながらの行動をとっている。イラン危機からほどなくして、アメリカは1948年のベルリン封鎖に対抗して多国籍軍による空輸を主導した。それに引き続いてアメリカは韓国を北朝鮮と中国の侵攻から守るため、国連の名の下で朝鮮戦争に出兵した。これら目に見える軍事介入と見えない軍事介入によって、アメリカによる世界秩序および国連や多国間イニシアチブに代表されるカント的なアプローチも進めやすくなる。(つづく)
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