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2014-12-14 00:00
(連載3)アメリカと世界を危険にするオバマ外交
河村 洋
外交評論家
オバマ大統領がイラクから拙速に徹兵し、シリアへの対処も稚拙だったことで中東および他の地域でアメリカの同盟国は自国の安全保障に神経質になっている。その一方でザカリア氏のアジア転進政策は21世紀への適応として高く評価されるべきで、中国、インド、インドネシアといったアジア諸国が世界の貿易と投資でますます重要になってくると主張した。しかしケーガン氏は「オバマ氏の転進政策はレトリックに過ぎず、その中核とも言うべきTPPは頓挫し、パネッタ元国防長官が言うように中東での力の真空を生み出しているだけだ」と批判した。アジアへの戦略的リバランスの名の下で、オバマ政権はアジアのみならず他の地域でも政策課題への対処に失敗している。中国とロシアは自信過剰の度合いを強め、核兵器は北朝鮮とイランにまで拡散している。さらにケーガン氏は「オバマ氏のアジア転進政策には戦略的な考察が欠如しており、新興諸国に関してはきわめて『市場志向』だ」と述べた。これは、私がオバマ政権のアジア太平洋政策に強く懐疑的である重要な論点である。私はアメリカが超大国としてとどまる強い意志の方が、戦略的バランスよりもはるかに重要だと考えている。
中国の脅威を前に、日本の反応はアメリカの政策形成者達の間で注目を集めている。ケーガン氏は「日本はオバマ政権の対中宥和政策を大いに懸念するあまり、指導者層の間ではナショナリストで自主独立志向の動きが見られるようになった」と述べた。さらにスティーブンス氏は「永田町がアメリカを頼りにならないと思えば、日本のプルトニウム施設は核兵器に使用されかねない」と警告した。オバマ氏による超大国の自殺行為によって、日本の政策形成者達の間でアメリカへの信頼が低下しているという両人の見解には私も同意する。しかし現在の日本にアメリカ離れの兆候があるという両人の見解には同意しない。確かに鳩山由紀夫氏による史上初の民主党政権は、アメリカ抜きの東アジア共同体を推し進めるほど非常に独自路線志向でアジア主義であった。鳩山氏はトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領や韓国のパク・クネ大統領がそうであるように、戦後歴代の日本の首相の中でも変わった首相であった。しかしそれも同じ民主党の野田佳彦首相によって大幅に修正された。安倍晋三現首相の深層心理は非常にナショナリストかも知れないが、内閣の首班としては「地球儀を俯瞰する外交」の名の下で民主主義諸国の同盟関係の強化を進めようとしている。さらに安倍氏はエルドアン氏に中国からの防空ミサイル購入を破棄するように説得し、西側同盟を専制国家から守っている。それは中国から防空ミサイルを導入しようとしていた韓国が、10月に同様な商談を再考したことには一役買ったかも知れない。
他方で日本の指導者達はアメリカとの同盟関係を強固で安定したものにするためにも、歴史認識に関しては注意深くあらねばならない。それはキャロライン・ケネディ氏が昨年の安倍氏の靖国神社参拝に「失望」したからではない。ケネディ氏はオバマ大統領が任命した大使に過ぎず、任期の終了とともに本国に帰国してしまう。誰もケネディ氏の外交問題に関する知識に多大な期待は抱いていない。大事なことは世界の中でこの同盟が抱える意味合いを長期的な観点から見つめねばならない。ケーガン氏とスティーブンス氏は中国の脅威の重大性を認識しているのに対し、リベラル派や財界は当地での貿易と投資の方に関心が向いている。そうした彼らでさえ日本でのナショナリストあるいは歴史修正主義の兆候が表れると、それがどれほど小さなものでも懸念を抱くのである。よって日本の指導者達は中国を中心とした専制国家の枢軸を利さないためにも、充分に注意深くなければいけない。
最後に、私は自国の価値感と理念に信頼を寄せていない大統領の下でアメリカの指導力が最大化されることはないと主張したい。就任以来、バラク・オバマ氏はアメリカ外交について物議を醸すような謝罪姿勢の発言を繰り返してきた。アメリカはもはや世界の警察官ではないという、あの悪名高き一言にもそうした発言と同様な思想が示されている。そのように低姿勢であっても世界の中でのアメリカのイメージが好転したわけではない。ただ、中国やロシアのように専制的な大国からはオバマ外交がアメリカの弱体化を反映したものと見られ、そうした国々がそれに応じて自信過剰な行動に出るのはクリミアでの武力により国境の変更、そして東シナ海および南シナ海での海洋航行の自由を脅かす行為を見れば一目瞭然である。アメリカを嫌う者は、ワシントンがハト派であろうがタカ派であろうが嫌うのである。長年にわたる同盟国は不安を強めている。最近報道されたようなイランによるISIS空爆は重大な事件で、もしオバマ氏が核交渉と並行してイラクのシーア派地域にイランの影響力浸透を許してしまえば由々しき事態である。世界に対するオバマ氏の基本認識をどう理解するかが、先のムンク討論会の問いかけへの鍵となる。(おわり)
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