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2014-12-20 00:00
(連載2)グローバル・フォーラムの「日本・アジア太平洋対話」
河村 洋
外交評論家
中国が全世界で展開するアメリカへの挑戦に関して、この国が自らを「まだ途上国だ」としばしば言う理由を再考すべきである。これは謙遜からでた言葉ではなく大々的な野心から出た言葉であろう。私はそれが暗示する意味を「全世界の途上国よ、団結せよ!欧米(そして日本)帝国主義に対して立ち上がれ!」であると解釈すべきではなかろうかと考えている。中国は革命国家であり、彼らには世界規模でパックス・アメリカーナに抵抗するだけの充分な理由がある。中国の拡張主義を抑制するうえで、私は割れ窓理論を適用すべきと考えている。すなわち、敵は、アメリカの弱い所を見つけて、それを狙い撃ちするのである。街で割れ窓を見つけたギャングが勢いづくように、というものである。
第二の論点は、万一にも中国がアメリカによる世界秩序の後を襲うことになった場合の覇権の性質である。パックス・アメリカーナはパックス・ブリタニカから自由主義の価値観、文化、政治システムを引き継いだが、中国がさらに台頭した場合には、そのような引継ぎは決して見られることはないだろう。パックス・アメリカーナとパックス・シニカではヘゲモニーの断層は極大となるからである。そうした事態になった場合、中国はローマを破壊して後世に何も残さなかったアッティラのフン族にしかなれない。
第三にの論点は、大国の競合におけるレジームの性質の影響の有無である。私は一例としてイランを挙げたい。イランは、近代化路線を歩もうが、イスラム神権政治を歩もうが、いずれの場合にも、ペルシア湾の大国を志向することに変わりはないからである。パーレビ王政時代には、イランはアメリカが支援するペルシア湾の憲兵としての台頭を目指した。シャーは啓蒙専制君主で西欧式の近代化によるネーション・ビルディングを追求した。シャーはペルシア人の偉大な歴史とともに、脱イスラム化によってアラブ諸国民に対する自分たちの優位を訴えかけた。それによってイランはレアルポリティークの面でもイデオロギーの面でも極めて親米で親イスラエルになった。他方で現在の神権体制はアメリカの優位への抵抗を通じた台頭を求め、その性質から言っても極端に反イスラエルである。彼らはアラブの間でも宗派が共通するシーア派のモスタザフィン(被抑圧者)との連帯を主張している。そうした国がテロ支援を行なうのは、レアルポリティークの面でもイデオロギーの面でも不思議ではない。
今回のグローバル・フォーラムの「対話」は、ますます複雑化してゆくアジア太平洋地域の情勢を理解するうえで非常に有益だったばかりか、日本の指導者達に対しても重要なメッセージを発信した。私が言及した3つの論点の中でも最も重大なものは、アジア転進政策の真の意味である。これはただのレトリックなのか、それとも中国での市場獲得への叩頭なのか、それともこの地域への真の戦略的関与なのか?それが投げかけられた最大の問題である。(おわり)
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