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2015-01-17 00:00
(連載1)フランスでのテロ事件
水口 章
敬愛大学国際学部教授
先般、「リスク社会論」で知られる社会学者のウルリッヒ・ペッグが死去した。ペッグは富の生産にともない、生産されるリスクが許容限度を超えると、それが社会紛争の発生源になると指摘している。フランス社会におけるアラブ系イスラム移民は、第二次世界大戦後の同国の労働力不足を補い、経済を成長させる上で必要な存在であった。しかし、低迷する経済下、フランス社会にとってのリスクとなっている。1月7日の「シャルリ・エブド」紙への襲撃事件は、その一つの現われとなった。ベッグが生きていたらどのようなコメントをしただろうか。
近代化の中で、技術が進歩し、生活が豊かになり、社会の自由度が増すことで個人化が進んでいる。その一方、集団から離れることで個人の負担は増す。この負担に耐えられる個人能力(人的資本、社会資本、文化資本など)を持っている者は、グローバル化が進み不確実性が増す社会でも成功を手にする機会に恵まれる。しかし、「シャルリ・エフド」紙を襲撃したクアシ兄弟のように、移民で両親を亡くした者にとって、その人生は厳しいものであっただろう。
一般的に、人は自分自身を守るために集団への帰属を強めようとする。その集団は、時にナショナリズム色の濃い集団であったり、宗教集団、武装集団であったりする。クアシ兄弟の場合、それはモスクを中心としたイスラムの集団であった。そして問題は、時と空間にあった。時とは、2001年9月11日の米同時多発テロ後の「反テロ戦争」が現在も続いていることである。また、空間とはパリのイスラム過激思想を有する礼拝導師がいるモスクに彼らが関係していたことである。さらに、弟のシャリフは収監中の2005年から2008年にジハーディストとの出会いがある。この欧米社会とイスラム過激派との対立の下、2人は帰属するイスラム集団の中で、確信的にイスラムの価値意識を強めていったと考えられる。
今回の事件での注目点の一つは武器の入手ルートである。また、2人の犯行とその背後にある組織の関係である。「ホームグロウンテロ」(自国民テロ)を強調する解説もある。一方、犯行時に犯人が「アルカイダだ」との言葉を発していたとの報道もある。そこで、容疑者をめぐるイスラム・ネットワークについて、少し整理してみる。第1が、兄のサイドに関する報道からは「アラビア半島のアルカイダ」がある。この組織で注目すべきは米国人のアウラキの存在である。アウラキはオバマ大統領の指示により、イエメンで無人機によって殺害された。イエメンで米国人を殺害するというこのオペレーションについては、一時、米国内でも批判が出た。オバマ大統領は、なぜ、違法とも思われる軍事措置をとったのだろうか。それは、アウラキが米国にいる間から若者たちにイスラム過激思想を広め、テロ訓練キャンプに送り込んでいたからである。さらに、アウラキはイエメンにわたってからも英語版の雑誌「インスパイア」(電子版)を発行し、欧米のイスラム教徒に影響を与え続けていた。1月8日付「ニューヨークタイムズ」紙でも、2013年5月に「インスパイア」で、「シャルリ・エブド」紙の編集長などを名指し、暗殺するよう呼びかけていたことが紹介されている。兄は2011年、このイエメンで銃撃訓練などを受けていたとの報道がある。(つづく)
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