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2015-01-18 00:00
欧米と一体化し、対立を煽ってはならない
松井 啓
大学講師、元大使
1月9日のパリでのイスラム過激派による風刺漫画新聞社銃撃事件では、20名近くの犠牲者を出し、世界の耳目を集めた。表現の自由を標榜するデモには、フランスでは370万人が参加し、オルランド大統領と共に英独首相も手を組んで行進する様が報道された。襲撃事件はパリだけでなく、英独ベルギーにも飛び火し、過激派は欧州全土とアメリカにも攻撃すると予告した。また、欧州在住のユダヤ人に対するイスラム教徒の襲撃事件も増えており、イスラエル(戦後欧米の思惑で建国)に安全を求め「脱出」するユダヤ人が急増している由である。
表現の自由の権利は当然に責任を伴うもので、無制限ではあり得ない。アメリカでの金第一書記に関する風刺映画や今回の異教の宗教指導者に対する風刺漫画は、立場の違いからは「冒涜」「挑発」「侮辱」と捉えられることを認識すべきであった。移民の中には、「白人」が中東やアフリカで植民地を築き、搾取し、奴隷や移民を受け入れたことについて、差別であり、非白人を社会的底辺に追いやってきたとの恨みや怨念が火山のマグマのように鬱積している。「白人」支配国が植民地の独立運動を潰そうとて犯した殺戮行為は、規模においても残虐性においても現在のイスラム過激派の比ではない。アメリカはアフリカの黒人奴隷や移民を多く受け入れた多民族国家であるが、社会的格差はいまだに大きく、襲撃事件や差別に抗議するデモもあとを絶たない。
2001年9月のニューヨーク等における同時多発テロ事件に対しブッシュ米大統領は「テロとの戦争」を宣言し、今回の事件でもオルランド仏大統領が「表現の自由を守るため団結してテロと戦う」との発言をし、欧米で結束して対処する方針を打ち出した。しかし欧米内のテロは武力で制圧や根絶できる課題ではない。戦争とは国家間の戦いであるが、イスラム過激派によるテロ攻撃は中枢政府が無い。しかも「ユーロポール」はEU諸国から「イスラム国」の支援や訓練を受けるため最大5千人が渡航したと推計している。彼らが帰国して癌細胞のように増殖し、地下組織に国外からの武器が流入すれば、「自家製」テロの防止は武力だけでは非常に困難となろう。
日本には「八百万の神」が存在し、宗教的対立は少ない。アジアにおける植民地支配も短期間で終わり、外国労働者や移民の数は少なく、1945年からの米国による支配も短期間に留まったため、統治される屈辱や怨念は少い。そのため、中国や韓国の「反日」感情がよく理解できず、外国人に対する「ヘイト・スピーチ」で悪感情を煽る行動も出ている。日本国憲法第12条では国民は自由と権利を乱用してはならず、「公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」と明記されており、最近法務省が防止のための啓発活動を強化する方針であることは喜ばしい。一般市民に対するテロは決して許されないが、日本はこのように歴史も宗教も移民の事情も欧米とは異なるだけに、表現の自由を旗印としたテロとの戦いを欧米と一体となって推進することは避けるべきであろう。その前に、使い捨てのような外国人労働者の待遇を可及的速やかに改善し、彼らが日本社会と一体化できるような制度を策定する必要がある。これは日本人一人一人の心の問題でもある。
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