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2015-01-23 00:00
政府は最後まで救出努力をすればよい
杉浦 正章
政治評論家
死刑執行人が予告した「72時間後の処刑」が本日午後2時50分に迫っている。首相・安倍晋三が宣言した「情報戦」も、相手が一切の沈黙を守っているために、ぬかに釘の様相を呈している。果たして72時間が絶対的なものなのか、2億ドルが“掛け値”なのかなど、全く不明のままでの手探り状況が続いている。一方で政府があらゆる手段を講じて救出に全力を投入している姿に瑕疵(かし)はない。テロリストの予告通りに死刑が執行されるか、何らかの方法で釈放されるかは、全く予断を許さない。いずれにしても、誘拐された二人は「自縄自縛」の状況を自ら作り出したのであり、自己責任は免れない。
安倍は「情報戦」のなかで、2億ドルが人道援助である点に絞って国際世論に訴えるよう関係閣僚らに指示した。これは執行人が「2億円は我々の女性と子供を殺し、イスラム教徒の家々を破壊するためだ」と主張していることに反論するためのものだ。安倍が1月17日にカイロで「イスラム教徒と戦う周辺国に総額2億ドルの支援を約束する」と言った言葉尻をとらえたものだろうが、安倍は「武器購入や兵員確保のために支援する」と言ってはいない。避難民等に対する食料、医療援助を目的としたものであり、安倍の言うように全くの人道支援だ。一部野党やマスコミが安倍のせいであるかのように主張するのは全くの見当違いであり、結果的にテロリストに組みするようなものだ。善悪の区別は小学生でもつけられるのであり、テロリストを相手に国論をあえて割るような主張は控えるべきだ。
さらに拘束された2人にも責任がないかと言えば、嘘になる。芥川賞作家の平野啓一郎がツイッターで「スポーツなどで国際的に活躍すると、『同じ日本人』として思いっきり共感するのに、紛争地帯で拘束されたりすると、いきなり『自己責任』と言って突き放してしまう冷たさは何なのか」と主張しているが、論理破たんの極みだ。筆者が批判しなくても、ネット上で袋叩きに遭っている。様々な批判の中で一番説得力のある声は「先日御嶽山の噴火で死亡した人たちは同情されても、今御嶽山に登って噴火に巻き込まれたら自己責任だろ」という書き込みだ。また「スポーツで活躍して、あるいは惨敗して国税が失われるか? 危険な地域にわざわざ足を運んで捕まって国に迷惑かける者とスポーツ選手を同等に見られるわけがない」も至極もっともだ。だいいち拘束された後藤健二は「これからイスラム国の支配地域に入ろうと思う。全ての責任は自分にある」と潔いビデオメッセージを知人に託しており、覚悟の上での行動であった。もちろん近代民主主義国家と国民との関係は保護者と被保護者の関係が歴然として存在している。どんな馬鹿げたことをする国民であっても、国家としてはできる限りのことをして、その国民の窮地を救わなければならないことは常識だ。米国がテロリストとは絶対に取引しないという鉄則を維持しながらも、特殊部隊による救出作戦を実行したり、作戦を練ったりしているのは、その鉄則があるからだ。
ただし、テロリストに屈することは避けなければならない。屈した良い例はダッカ事件で福田赳夫が取った措置だ。「人命は地球より重い」はよいが、赤軍の言うがままに600万ドルの身代金を支払い、服役中の犯人を釈放したのは、最悪の例としてテロ対策の歴史に禍根を残した。人命救助とテロとの妥協には自ずと限界があるのだ。英国の国防相・ファロンが「今の行動が次にどう影響するかを考える必要がある。強く対応しないと、後々、いろいろな問題も出てくる」と、防衛相・中谷元にクギを刺した。中谷は22日、「毅然たる、断固とした姿勢で対応しなければならない」と発言したがもっともだ。要するに、最大限の救出努力を国家の義務として遂行し、それでも救出できなかったときは、自己責任としてあきらめるしかないのが、テロ対策だ。救出に失敗したら、邪悪なるテロリストを根絶するために、あらゆる資源を総動員して戦えばよい。
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