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2015-01-27 00:00
(連載2)アメリカの「世界の警察官」退任発言について
河村 洋
外交評論家
このため、イラクはF16戦闘機とアパッチ攻撃ヘリコプターの購入を決断した。マリキ政権はブッシュ政権末期の2008年9月よりF16の購入を検討し始めた。彼らが決断を下したのはオバマ政権の発足から数ヶ月後の2009年4月である。イラクは2011年にまず36機を発注することでアメリカとの間で最終的に合意に達したが、UPI通信の報道によればそれでもイラク全土をカバーするには不十分だという。問題はサダム・フセインが政権の座を追われてからイラクにはジェット戦闘機がなかったので、そのような先進機器を使いこなせるパイロットがほとんどいないということである。さらにISISの攻撃から教官とイラク軍パイロットの安全を期すため、F16の飛行訓練地はイラク北部のバラド空軍基地からアリゾナ州ツーソンに変更された。そのうえ、イラク軍パイロットには長時間の集中的な訓練が必要である。よってF16がイラクに引き渡されるのは2017年になるという。イラク議会はF16の引き渡しがさらに遅れる事態に苛立ちを募らせている。
イラクがアメリカから輸入しようとした地上攻撃用の航空兵器にはAH64アパッチ・ヘリコプターもある。しかしオバマ政権がイラクとの合意に達した2014年1月には民主党のボブ・メネンデス上院議員が委員長を務めていた上院外交委員会は「シーア派のマリキ政権がISISや反乱分子との戦闘よりも少数派のスンニ派への抑圧にアパッチを利用するのではないか」との懸念を提起した。この合意には何とか達したものの、イラク政府は両国で合意した24機に加えて6機のリースを要求した。イラクは2014年9月に最終的にその合意を破棄した。F16の場合と同様に、オバマ政権はイラク政府が要求してきた機数を迅速に引き渡すことができなかった。上記のような失敗を重ねたためにイラクはISISだけでなくイランに対しても脆弱になった。オバマ政権はISISとの戦いでイランに協調を依頼しながら難しい核交渉を行なう羽目になった。さらにイランはイラクでは南部のシーア派を通じて影響力を浸透させている厄介なアクターである。今やイラク政府はシーア派民兵への依存度を高めている。オバマ氏はイランとの反ISIS提携を一時的なものと考えているかも知れないが、それではイラクの治安には長期的な悪影響を及ぼす。イランは依然としてシリアのアサド政権を支持している。また、シーア派民兵はスンニ派住民を自分達の周囲から追い出そうとしている。そうした宗派間の亀裂を克服する唯一の方法は、中央政府があらゆる民族と宗派を取り込んだ強固な治安部隊を作り上げることである。
イラク国内でアメリカの重要な同盟者であるクルド自治政府は多国籍軍の空爆によってISISの脅威は相対的に封じ込められたが、シーア派民兵を通じたイランの影響力の浸透に非常な危機感を募らせている。それら民兵の内でもアサイブ・アール・ハクとバドル民兵がクルド人にとっては重大な脅威で、双方ともイラン革命防衛隊と緊密な関係にある。シーア派勢力が最も活発なのはクルド地域とイランとも境界を接するディヤーラー県で、彼らはさらに北のキルクークにまで進出している。そうした問題にもかかわらず、オバマ政権は核交渉のためにイランに対する政策を緩和しようとしている。それは一般教書演説で議会の反対を呼び、オバマ氏はイランの脅威を理解しているのか疑問視される有り様である。そうした批判は当然のことで、オバマ氏はまるで中東の安全保障をイランに委任しているかのようにさえ見える。
アメリカがイギリスの覇権を引き継いで以来、その力は好調な時期も不調な時期もあった。ニクソン政権とオバマ政権の歴史的背景はきわめてよく似ているが、それに対応する政策には著しい違いがある。オバマ政権は「世界の警察官」という責任を投げ出してアジア転進政策をとろうとしているが、その準備は何もしていない。多くのコメンテーターが表面的なアメリカの衰退を議論しているが、本当に問題なのはリーダーシップの質である。ニクソン氏とは違い、オバマ氏には外交政策のビジョンがない。パーレビ国王にはニクソンおよびフォード政権との相互信頼があったが、マリキ氏もアバディ氏もオバマ氏との間に本当の信頼関係はない。ニクソン氏にはヘンリー・キッシンジャー氏がいたが、オバマ氏には頼るべき外交政策の助言者がいない。両大統領の歴史的な比較によって、今日のアメリカ外交の置かれた位置を正確に理解できるものと信じている。(おわり)
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