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2015-02-18 00:00
過去の談話は“軟化”して受け継げばよい
杉浦 正章
政治評論家
8月から9月に予定されている中韓両国による戦後70年の「対日歴史戦」に対応するには、まず対米調整が必須条件だと筆者は主張してきた。首相・安倍晋三が連休に訪米して戦後70年の共同文書を出す方向となったことは、まさに“先手必勝”を地で行くものであり、外交的に巧みな手法である。共同文書は終戦記念日に出される「安倍談話」に先行するものとなるだけに、どこまで踏み込むかが焦点になる。米政府内には村山・小泉談話の「キーワード」に固執するムードがあるが、安倍の本心は出来るだけ触れたくないところにある。従って安倍の言う「全体として受け継ぐ」が、レトリック(修辞法)としていかに反映されるかが焦点になるだろう。「安倍談話」に関する安倍のポジションは「安倍内閣は、歴史認識については歴代の内閣の立場を全体として受け継いでいる。先の大戦の反省の上に立って、戦後自由で民主的な国をつくってきたこと、これからアジアや世界の平和と安定、繁栄に貢献をしていく、そうした発信を盛り込んだものをつくっていきたい」というものだ。しかし「全体として受け継ぐ」の内容については、どうも村山・小泉談話の「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「心からのお詫び」の“キーワード三点セット”をそのまま受け継ぎたくないように受け取れる。とりわけ村山談話についてはかねてから「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と述べている。この社会党政権の出した談話などは踏襲したくない、という安倍の気持ちは分かる。
他方米国の空気はと言うと、中韓両国によるロビー工作やプロパガンダがここ数年かなり利いてきた感が濃厚である。とりわけ朴槿恵の慰安婦言いつけ外交が効果を上げてきている。国務省などは報道官・サキが新年早々「これまでに村山元首相と河野元官房長官が示した謝罪が、近隣諸国との関係を改善するための重要な区切りだったというのが、我々の見解だ」と強いけん制球を投げてきている。韓国のロビー工作をもろに受け止めていると言われる米議会調査局にいたっては、日米関係の報告書を発表し、安倍政権が歴史問題で「周辺国との関係を悪化させ、米国の国益を損なわせたかもしれない」との懸念を示したうえに、安倍首相を「ナショナリストとして知られる」とか「歴史修正主義的視点を持っていることを示唆している」と個人攻撃をする始末だ。安倍の日米同盟重視路線が米国のアジア戦略にとって不可欠の要になっていることなど、大局に関しては無知とみえて、レベルが低いが、一度政府はこの調査局の偏向について正式に抗議した方がよい。
こうした米国の空気は、戦後70年の共同文書を作るに当たっては無視できないのも現実だ。米国は共同文書が極東の安定を強化するものであることを望んでおり、サキが過去の首相談話の文言にこだわるのも、談話が中韓両国を刺激するものになっては元も子もないからであろう。ここは首相訪米前に外交当局が徹底的に詰めなければならない部分でもあろう。ただオバマのリバランス(再均衡)の核が紛れもなく「安倍」なのであり、その安倍の気持ちの忖度(そんたく)なくして、リバランスが成功すると思ったら、オバマも甘い。安倍は施政方針演説で「本年は被爆70年」とあえて広島、長崎に言及している。歴史認識を言うなら無辜(むこ)の民を虐殺した原爆投下はどうなるかという思いが安倍にあっても不思議はない。しかし死去したドイツの元大統領ワイツゼッカーが「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすい」と述べたあたりは、歴史認識として全てを包含していてうまい演説である。日本とはスケールの全く異なるナチスドイツの犯した残虐行為が、この程度のレトリックで感銘を呼ぶのだ。
村山談話の欠陥は、その表現の過度な修飾部分にある感じが濃厚である。「痛切な反省」までは言わずに「反省」。「心からのお詫び」などと言わずに「お詫び」で十分だろうと思う。従って「植民地支配と侵略に反省し、お詫びする」程度に“軟化”させてはどうか。歴史認識問題はその一言を挿入するだけでよい。あとの90%は日本が戦後70年平和国家として世界平和につくした点を強調し、今後も戦争を自ら仕掛ける国にならない平和国家であり続けることを述べればよい。ロシアが過去に戦争を繰り返し、現在もウクライナで紛争を引き起こし、中国が戦後周辺国との戦争や紛争に明け暮れてきた好戦的国家であることには、直接触れる必要は無いが、ほのめかしてもよい。
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