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2015-03-01 00:00
(連載2)ISISとイランの二重脅威にどう対処するか
河村 洋
外交評論家
そのように複雑な方程式をどのように解けばよいのだろうか?ISISと戦うというだけの理由でクルド人とシーア派の民兵を呉越同舟させることはきわめて危険である。実際に民族宗派間の紛争も伝えられているからである。イラク南部の現地シーア派に加えて、イランはシリアでもシーア派代理勢力を支援してアサド政権を守っている。メリーランド大学研究員のフィリップ・スミス氏は、「こうした代理勢力がシリアに流入しているからと言って、シーア派が自発的に連帯しているわけではなく、イランが地政学的にもイデオロギー的にも高度に組織化された支援を行なっていることを示すものだ」としている。そして「すでにレバノンにはイランがパーレビ王政崩壊時点から支援を続けているヒズボラがいる。さらにイラクのリワ・アブ・ファドル・アル・アッバースというシーア派組織もシリアの内戦に参加している。ISISと同様にイランもフェイスブックを利用して志願兵を募っている。特にアフガニスタンのシーア派が広告の対象となっている」と述べている。イランの革命防衛隊は反乱兵の募集のためにそのように広範なネットワークを築いている。イランが及ぼす悪影響は一般に思われているより大きなものである。
それら多くの懸念にもかかわらず、オバマ氏は「欧米がイランに原子力利用と中東での『正当な地位』さえ認めてやれば、この国がイラクとシリアで建設的な役割を果たせる」と信じ込む有り様である。民主党のボブ・メネンデス上院議員やオバマ氏と長年の盟友であるトム・ケイン上院議員さえ、イランに対するそうした甘い見方には異を唱えている。スミス氏は「欧米はISISとシーア派双方がネット上で行なうプロパガンダと兵員募集を遮断するように」と提言しているが、それは序の口に過ぎない。アメリカが二つの敵にどのように対処すべきか模索するために、ワシントン近東政策研究所は2月11日に公開討論会を開催した。同研究所のマイケル・ナイツ研究員とメリーランド大学のフィリップ・スミス氏が戦略的な概観を述べて政策の方向性を提言した。両者の議論はP・J・ダーマー退役陸軍大佐が総括した。
はじめにナイツ氏が「ISISとの戦いには数年で勝つことが可能だが、シーア派民兵がクルド人およびイラク中央政府と衝突すればイラクの統一が損なわれる」と述べた。また「バグダッドは有志連合がイランへの過剰な依存に走れば、シーア派がイラクを乗っ取るのではないかと懸念している。よってアメリカと同盟諸国はこの戦いでイランより大きな戦果を挙げねばならない」と説く。そして「さもなければイラクはイランの衛星国となり、アメリカはこの地域で重要なパートナーを失うことになる。レバント地域でのイランの影響力も問題である。シーア派民兵はシリアのアサド政権を支援しているので、彼らの存在はイスラエルにはゴラン高原で、イラクには北西部国境での脅威となる」と続けている。そうした議論を踏まえて、スミス氏はイランがレバントからペルシア湾まで影響下に置くようになると警告している。ISISとイランへの対処が同時に必要になるという複雑な事態に鑑みて、ダーマー氏は「アメリカにとって最重要課題はISIS打倒後のイラクを安定して継続的なパートナーにすることだ」と総括している。
私が彼らの討論でやや当惑したのは、アメリカは核問題でテヘラン政府と厳しい交渉に臨んでいる最中に、ISIS打倒のためにイランに支援を求めるというオバマ政権のアプローチを認めたかのように議論が進んだからである。オバマ大統領の宥和政策によってイランがアメリカを弱体と見なして自信過剰になるのではないかとの懸念は深まるばかりである。昨年6月18日にアメリカン・エンタープライズ研究所でジャック・キーン退役陸軍大将がジョン・マケイン上院議員との公開討論で「イランはシーア派民兵を通じて自分達の足場が固められる限り、イラクの安定には関心もない」と語ったことを忘れてはならない。そうした分析を考慮すればオバマ大統領によるイラン頼みの対ISIS戦略は厳しく批判されるべきであった。
これまで挙げてきた観点から、私は安倍首相による2億ドルの援助計画は、有志連合がISISと戦う一方でイランの影響力拡大を極力抑えるには絶好のタイミングであったと考えている。日本のメディアはこのことに言及しない。安倍氏自身あるいは岸田文雄外相はこのことを国民の前でもっと大胆に述べるべきであったし、それによって日本国民と知識人の間でイスラム過激派に対する問題意識と理解が高まったであろう。日本はイスラエルとアラブ諸国の双方をイランの脅威から解放するとともに、「こうした国にISIS掃討への協力を要請する」というオバマ大統領の致命的な失態を修復させるために絶対に必要な行動をとったのである。これはまさに積極的平和主義を実行に移す対応である。なぜ永田町界隈とメディアの間では、これほどまでに今回の歴訪に難癖がつけられるのだろうか?事態は人質事件への感情的な条件反射ではなく、中東の全体像と世界の中の日本の立場から論ぜられるべきである。(おわり)
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