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2015-03-02 00:00
武力行使に腰引けたオバマ「国家安保戦略」
鍋嶋 敬三
評論家
オバマ米大統領が5年ぶりに発表(2月6日)した「国家安全保障戦略」(NSS)は国際的なテロリズムとの戦いに焦点を当てるものになった。しかし、ここで注目されるべきは、(1)オバマ政権が武力行使にはっきりと消極的な姿勢を打ち出したこと、(2)国際秩序の認識について政権外の識者とのギャップが目立つことである。NSSは結論部で「第2次大戦後、米国主導で生まれた世界秩序が今後も世界に益し続ける」という確信の下に、外交を進める決意を示した。しかし、キッシンジャー元国務長官は「現在の国際秩序は再定義されつつある」(1月29日上院軍事委員会証言)と述べ、ブルッキングス研究所フェローのシャピロ氏は「われわれは冷戦後の秩序の終わりを目の当たりにしている」との認識を示している。
オバマ大統領は戦略発表に際しての声明で、「米国が手を伸ばし過ぎることに反対」せざるを得ず、米国が直面する課題に対して「戦略的忍耐」を要すると主張した。世界の動乱や紛争に米国はどのような手段で介入、対処しようとするのか?武力行使については「選択的」であり、時には必要だが、「第一の選択肢であるべきではない」ことを明確に打ち出した。「米国の利益が直接脅かされない場合に、軍事行動の敷居は高い」と消極姿勢を露わにした。このような方針はウクライナ危機で親ロシア派武装勢力への対抗措置として、米国が武力介入やウクライナ政府への武器供与を逡巡し続けていることに表れている。ウクライナの情勢が米国の安全保障を直接脅かすものでないと判断したからなのか。オバマ政権が安保基本文書でロシアが併合したクリミア半島のウクライナへの返還を要求しないのも驚くべきことである。
このようなオバマ政権の姿勢からすると、東シナ海(尖閣諸島)や南シナ海で中国が(準)軍事介入しても、米国の利益に直接関わらないと判断した場合には、条約上の義務があっても軍事的な行動に出ないのか、疑念を生じさせる。オバマ戦略の本質をロシアのプーチン大統領は早くから読み取り、ウクライナ侵略の挙に出た。中国も南シナ海の紛争地域で島しょを埋め立てて軍事拠点を作り上げ、制海権、制空権の確保に乗り出している。国際的な安全保障の責任をだれが引き受けるのか。NSSによれば、第一に米国が責任を持つが、「多様な国際的連合やパートナーとの協力」による「世界的な安全保障の態勢(global security posture)」が必要とされる。
テロだけでなくサイバー、宇宙、空、海など世界共有の空間を脅かす危険に対処するために「集団的行動」が必要とされる。北大西洋条約機構(NATO)、日本、韓国、オーストラリアなど同盟関係にある諸国がこれらの努力の「中心」と位置付けた。米国の軍事介入の消極姿勢と反比例して、同盟国への負担分担の協力要請がますます強まることを示唆している。キッシンジャー氏は現在の国際秩序が変化の過程にあり、それに代わるものの形は定かではないが、「米国の役割は不可欠である。動乱期には特にそうだが、米国が関与しないことの結果はより大きな混乱を招くことになる」と警告を発した。米議会の多数派を握る共和党からは「大統領の手法が世界の混乱を助長し、イスラム国などの悪者をのさばらせてきた」(グラハム上院議員)など、厳しい批判がある。米政治の特徴であった超党派外交の復活をオバマ氏は期待したが、それは可能だろうか?主要政策をめぐるリベラル派と保守派の二極分化が進み、一年半後の大統領選挙に向けて党派対立が激化する中で、米外交は極めて厳しい課題に直面している。
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