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2015-03-05 00:00
シャーマン発言は朴の外交姿勢を直撃している
杉浦 正章
政治評論家
慰安婦像を米国内にいくら建てようと、米外交までは左右できないというのが、米国務次官シャーマン発言によって証明された。韓国政府やマスコミに大きな衝撃を与えている発言は、中央日報が「米国の公式な立場と断定するには無理がある」と期待感を込めた分析をしているが、筆者の判断ではシャーマンの発言は韓国で言う「決心発言」、日本語では「確信的発言」だ。背景には、オバマ以下日韓関係改善に腐心をしてきた米国が、依然慰安婦問題など歴史認識を盾に日韓首脳会談に応じない大統領・朴槿恵にしびれを切らした事があるのだろう。中国台頭へのリバランス(再均衡)政策を展開する米国にとって、過去より極東の現実を重視することの方が格段に優先順位が高いのである。家康が洞ヶ峠を決め込む小早川秀秋に向けて発砲を命じて寝返らせたのと同じように、米国は慰安婦一点張りの朴に対するきついけん制球を投げたのだ。
2月27日、国務省序列3位の次官・ウェンディ・シャーマンはカーネギー財団で戦後70年をテーマに講演した。そのポイントは「愛国的な感情が政治的に利用されている。政治家たちにとって、かつての敵をあしざまに言うことで、国民の歓心を買うことは簡単だが、そうした挑発は機能停止を招くだけだ」という点。次いで沖縄県・尖閣諸島を巡る日中間の緊張や日中韓の歴史認識に関する問題などについては「理解できるが、もどかしくもある」と述べた2点だ。まず発言にある「政治家」とは誰に当たるかだが、シャーマンは複数形で述べており、朴槿恵と中国国家主席・習近平を指すことは間違いない。しかし発言の流れを分析すればより朴に対する発言である比重が大きいことが分かる。「もどかしい」は「もういいかげんにせよ」といういら立ちの表現だ。韓国政界やマスコミもまるで驚天動地の反応だ。3月2日の国会外交統一委員会では野党議員が「大変驚いた。多くの国民が憤慨している。政府に適切な措置を求める」と発言。韓国最大手紙の朝鮮日報は3日付で「看過できない米国務次官の韓中日共同責任論」と題する社説を掲載。「米国の同盟国の指導者に対する無礼であり、中国に対する挑発だ」と怒りまくっている。
傑作なのは中央日報だ。「発言のあちこちから『日本はそれなりに努力しているのに韓国・中国が国内の政治的理由でこれを受け入れない』という形の日本側論理が見られる」と強調。これだけは正鵠(せいこく)を得ている。揚げ句の果てに「日本はワシントンに韓米関係に溝を開けることを専門担当とする外交官がいるほどだという」と噴飯物の分析をしている。シャーマン次官発言が確信的である証拠は、きわめてセンシティブな問題に繊細な言葉遣いをしていることであろう。例えば慰安婦を「いわゆる慰安婦(so called comfort women)」と発言してクリントンの「性奴隷(sex slaver)」発言の表現をとるのを控えた。さらにシャーマンは「歴史教科書の内容をめぐってもお互いに意見の相違(disagreement)がある」と表現した。これは明らかに日韓の主張の相違を客観的に述べただけで日本に対する外交的配慮が見られる。従ってシャーマン発言は練りに練ったものであり、その基本には日韓関係悪化の主因は韓国側にあるという判断がある。
米国にしてみれば、集団的自衛権の行使や日米ガイドラインの改正など安倍政権の日米同盟重視の姿勢は、オバマのリバランスにとって何物にも代えがたいものであろう。そのオバマが昨年斡旋して日米韓3か国首脳会談に持ち込んだ。米国としてはこれを契機に両国関係が改善すると期待したのであろう。しかし、朴の偏執狂的なまでに執拗な慰安婦問題執着で、日韓関係は進展しない。最新鋭の迎撃システムである「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備も、朴は習近平のけん制を受けて態度が決まらない。アジア全体を見回せば、安倍の活発な外交で、中国包囲網が形成されつつある。簡単に言えば日本と韓国のどっちをとるかと言えば、極東の要は日本なのである。脆弱な半島国家より島国で「不沈空母」(中曽根康弘)を確保するのが米戦略のイロハのイなのだ。おまけに国家の力量から言っても経済力、軍事力ともに比較にならない。この認識がシャーマン発言の根底にあるのだ。
日本外務省がそのホームページから「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する」との表現を削除したことについて、韓国は4日、「日本政府が説明しなければならない」とのコメントを出したが、日本の韓国大使館は一体何をしていたのだろうか。この部分は安倍の施政方針演説で、とっくに外しているのであり、これを見逃して今頃クレームを入れても遅いのだ。産経のソウル支局長が在宅起訴されたいきさつを見れば、言論の自由を重視する民主主義国家としての韓国の有り様が疑われても仕方がない。従って価値観を共有できないのだ。「重要な隣国」が残っているだけでも有り難いと思わなければなるまい。そもそも朴の外交姿勢自体が見直されるべき時だ。朴は就任早々訪米してオバマの歓待、米議会での演説、クリントンの「性奴隷」発言、オバマの「ぞっとする人権侵害」発言などで、米国が自分を全面支持してくれているような錯覚をしてしまったのだ。今こそ外交の現実に目を向けるべきであろう。前大統領李明博も「歴代の韓国の大統領は任期後半になると、『反日』を使いながら支持率を上げようとする繰り返しだった。私はそういうことはしたくない」と述べておきながら、レイムダック化すると竹島上陸だ。朴にいたっては就任早々から「反日」を、シャーマンの言う「国民の歓心を買うこと」に使っているが、国民は馬鹿ではない。支持率は一時20%台まで落ち込んだ。シャーマン発言を頂門の一針と心得、そろそろ自らが置かれた状況に気付くべきだ。
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