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2015-03-17 00:00
未来志向の日韓関係の構築に向けて
池尾 愛子
早稲田大学教授
3月16日、日本国際フォーラム主催の第110回外交円卓懇談会「未来志向の日韓関係の構築に向けて」に参加した。講師は、陳昌洙(JIN Chang Soo)韓国世宗研究所・日本研究センター長であった。タイトルとは裏腹に、しかし事前の案内文にある通り、日韓の政治関係の見通しは非常に厳しいことが明確に伝えられた。その理由は一つではなく、幾つかが重なり合っている。「日韓関係を何よりも大事に思い、改善しようと努める政治家が双方において不在である」という指摘が強く印象に残り、「戦後70年の『安倍談話』はなくてもよいのではないか」という意見は挑発的だが面白いと思った。懇談会での話の要旨は、近々に本ウェブサイトに掲載されるはずなので、私の感想を書き留めておきたい。
陳氏の話を聴く限り、韓国の現在のポジションを理解することは重要であろう。韓国と中国は1992年8月、韓国側が一つの中国を承認することによって、国交が樹立され、それ以降、貿易や直接投資を中心に着実に経済関係を深めてきた。もっとも、2012年9月に私が若い人たちと一緒に台湾(中華民国)を訪問した時、韓国人が中華民国を訪問するための査証が不要になっていたほか、現地には韓国企業がかなり進出していたことも観察できた。実はこの訪問時に本土で反日デモが起り、台湾は平穏だったものの、周りの人たちがあまりに心配したため、私は2013年に計画していた若い人たちとのソウル訪問を取りやめざるをえなかった。2011年9月にソウルを訪問した時には、日本の若者たちは韓国の若者たちとの交流をたっぷり楽しんでいただけに残念である。
現時点の韓国に話を戻すと、今や対中貿易額は、対米・対日貿易を合わせた額を上回るとのことである。確かに、韓国の経済人や経済学者には、韓国経済は飽和しているので、輸出を伸ばさなくてはならないという意識が常にある。もう一つ、韓国と中国が積極的に協力しようとする理由に、北朝鮮問題を共有していることがある。もっとも、もし北朝鮮が韓国を攻撃し始めるようなことがあっても、中国が韓国側について安全保障を共有するようなことはない、ということも明確なのだそうだ。
では、日韓関係が悪いことによるデメリットは大きいのではないか。米ワシントンD.C.が外交の競争の場、それを越えて外交の戦場とまでなることがあるとのことであった。このように言われると、韓国が日本の足を引っ張っているように聞こえて、韓国の印象が悪くなるのではないか。そこまで外交で張り合うメリットはあるのか。さらにアメリカでは事情がわかっても、ヨーロッパあたりから見ると分かりづらいのではないか。韓国と中国の良好な関係の理由について、何人かのヨーロッパ人には、「韓国と中国は『北朝鮮問題』を共有している」と一言説明したことがある。その場では納得されたようだが、疑念は完全に解消しただろうか。理解できる範囲を越えてはいなかったか。私自身も含めて、私の周りでは、韓国人研究者を含めた共同研究が進められ、また進めようとされており、そして韓国出身の研究者や学生と交わる機会はあるので、こうした交流活動を地道に続けていくことに変わりはない。協力できるところで協力していくことが基本になるのであろうか。
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