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2015-03-23 00:00
リー氏、高い識見で世界に影響力
鍋嶋 敬三
評論家
アジアの巨星墜つ。シンガポールのリー・クアンユー元首相が3月23日死去した。91歳。中華系を主体にマレー、インド系など多民族の都市国家を独立に導き、政治体制が「権威主義的」と批判されながらも驚異的な経済発展を実現、国際的な金融センターに成長させ、「建国の父」と呼ばれる偉大な存在だった。同国の一人当たり国民総生産(GDP)はアジアNo.1の55,000ドル超で日本をはるかにしのぎ、日本企業の進出は引きも切らない。卓越した識見で世界の指導者から尊敬を集めた。キッシンジャー元米国務長官は「リー氏は米国が中国を含むアジアと基本的で有機的な関係をどのように築くか、という最も重要な課題を明らかにした。彼ほどわれわれに教えてくれる人物はいない」と賛辞を呈した。「リー語録」からその思考を探る。(出典:Allison & Blackwill, LEE KUAN YEW, The MIT Press, 2013)
「21世紀は太平洋の覇権をめぐる争いになる」「米国が太平洋で地歩を失えば、世界のリーダーになり得ない」。リー氏は「米国の核心的利益は太平洋」と断言した。リーマン・ショックで米国衰退論が勢いを増したが、「米国はその創造力、強靱(じん)さ、革新的精神によって競争力を取り戻すことができる」と米経済の復活を予言した。しかし、米外交の失敗についても語っている。「米国が30年前に東南アジアに自由貿易地域を作っていれば、すべての東南アジア諸国は(今のように)中国に依存するよりも、米国経済に結びつけられていただろう」と。環太平洋連携協定(TPP)交渉は米国の内政の影響で足踏み、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には先進7カ国(G7)の英独仏伊までが米国の反対を無視して参加の意向を示し、米国の指導的地位が揺らいでいる。
アジア太平洋地域で米国と覇権を競うのは中国である。中国の指導者に対してリー氏は「現実主義の感覚を持たねば」と助言している。「彼らはアジアを支配するのは不可能であることを知らねばならない」と同じ華人ながら、厳しい注文をつけた。「中華民族の復興」を掲げ、周辺諸国と外交、軍事摩擦を繰り返している習近平指導部には耳の痛い忠告だろう。とは言うものの、第2次大戦後70年、地域の安定をもたらしてきたのは米国であることは「中国指導部も認識している」。中国は米国の市場や技術を必要としており、「米国との対立は何の利益も生まないことは分かっている」。従って、中国の取るべき戦略は米国との共存の「枠組みの中で成長すること」だと、リー氏は主張する。「政治的、経済的な秩序を成功裏に変えるのに十分な力を備えるまで、時節を待つべきだ」と中国に慎重な行動を求めた。しかし、中国は「今やその時が来た」と判断しているのかもしれない。
中国は民主主義になるか?リー氏はずばり、「ノーだ。中国は(米欧流の)リベラル・デモクラシーにはならない。そうなれば中国は崩壊する」。言論の自由や基本的人権など西側民主主義制度とは相容れない中国の政治体制は変わらないことを断言した。尊敬する政治家として、ドゴール元フランス大統領、鄧小平・元中国最高指導者、チャーチル元英首相を挙げた。そして「自分はステーツマンとして記憶されたくはない。『自分はステーツマンだ』と思う人は精神科医に診てもらったらいい」と言う。自分の評価は「棺(ひつぎ)を閉じてからにしてほしい」「棺のふたが閉まるまで、何かまた馬鹿なことをするかもしれないから」と笑うリー・クアンユー氏に歴史はどのような評価を与えるだろうか。
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