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2015-04-27 00:00
安保協力強化で日英の利害は一致
鍋嶋 敬三
評論家
総選挙(5月7日)を控える英国で、次期政権に日本との安全保障協力の強化を訴える有力な論文が現れた。安倍晋三首相の積極的な安保・防衛政策に呼応した対日協力強化が英国に利益をもたらすとの観点から政策提言を試みている。著者は英国王立国際問題研究所(Chatam House)アジア部長のスウェンソン=ライト博士で、「アジアで安全保障関係が有効に機能することが英国には決定的に重要だ」と言う。アフリカ、中東、アジアに広大な植民地や保護領を有していた歴史からも地域における貿易、投資の利害関係は深いものがある。「湾岸から東アジアに至るシーレーン(海上交通路)の確保は英国の商業利益にとって不可欠である」と指摘したが、日本にとっても事情は同じであり、日英の利害関係は一致する。
伏線は2014年5月の日英首脳会談にあった。ロンドンでの会談で安保協力の拡大に合意、「21世紀のためのダイナミックな戦略的パートナーシップ」と題する共同声明を発表した。キャメロン首相は日本の安保分野における積極的な役割を歓迎し、首脳合意を受けて2015年1月、外務・防衛閣僚会合(2プラス2)が開かれ、物品役務相互提供協定(ACSA)の交渉開始、自衛隊と英国防軍との共同訓練の強化などで合意した。公海、サイバー空間、宇宙空間などグローバル・コモンズの保護のための協力、南シナ海における行動規範(COC)の早期策定、日本による北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)との協力強化、国家安全保障局(NSC)間の緊密な連携などの具体策の推進を確認した。
スウェンソン=ライト博士は政策提言として(1)防衛関係の共同開発、共同生産プロジェクト、(2)テロ対策の共同訓練、(3)両国NSCの危機管理の調整、(4)情報機関(日本は公安調査庁)の情報共有、(5)英国防軍と自衛隊間の平和維持と人道救助作戦の調整などを挙げた。英国が自国だけで対応する能力には限界があり、英国の外交的存在感や政治的立場を維持する上で日本との緊密なパートナーシップは費用対効果の上でも極めて有効という計算もある。日本にとっても、歴史的にアフリカ、中東、アジアに強い英国のノウハウを取り込む利益は大きい。首脳合意にもかかわらず、中国主導のアジアインフラ銀行(AIIB)への参加問題では、先進7カ国(G7)の中で英国が真っ先に名乗りを上げ、日本も米国も出し抜かれた。日英共同声明が「空文化」したかのようだ。日本の財務省、外務省の情報収集、分析能力の低さを見せつけただけではない。首相、閣僚間で「耳打ち」してくれるような信頼関係ができていないことが露呈した。
同博士は日英間の防衛・安保協力を通じて日本が受ける政治的利益として、日本が常任理事国を目指す国連安全保障理事会の改革に向けて日本の力になるとしている。100年前の日英同盟を例に引きながら、両国の緊密な安保協力が東アジアや遠く離れた諸国に対しても、日本の積極的な安保態勢(security posture)が建設的なもので、前向きな発展であることを改めて保証するものになると結論付けている。外交戦略上の成果は長い間の二国間、多国間協力の実質的な積み重ねの上で実を結ぶ。日本の協力相手はワシントンだけではない。欧州諸国ともパートナーシップの実を挙げることが日本の外交力の底上げにつながるのである。
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