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2015-05-25 00:00
転換期の国際秩序と安倍内閣の責任
鍋嶋 敬三
評論家
安全保障関連法案が5月26日に衆院で審議入りする。集団的自衛権行使容認の閣議決定(2014年7月)を受けて、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の18年ぶりの改定、自衛隊法など関連10法を改正する「平和安全法制整備法案」および「国際平和支援法案」の2本立てで、激変する国際安全保障環境に対応するものだ。その眼目は、平時から有事に至る多様な事態に切れ目なく対応できる防衛態勢を敷くことによって、侵略に対する抑止力を高めることである。集団的自衛権の限定的な行使を可能にするのはこのためである。政府が取り組むべき課題は日本の領土、領海の主権維持はもとより、日本の存立が脅かされる事態への対処、国際平和維持のための後方支援や治安維持などである。
積極的平和主義を掲げる安倍晋三内閣が打ち出した包括的な防衛・安保政策であり、日米同盟の強化で米国の抑止力を高めつつ、日本の国際的役割を拡大する法的基盤となるものだ。21世紀初頭の対米テロ攻撃は世界争乱のパンドラの箱を開けた。ロシアのウクライナ侵略、中国の東・南シナ海への軍事進出、北朝鮮の核・ミサイル開発、中東のイスラム過激派組織の広がり、などである。グローバルな脅威の多様性と拡散はとどまることを知らない。米国にはこれを単独で押さえ込む実力がなくなり、第2次世界大戦後の世界秩序は正に転換期の最中にある。
アジアを見ても、中国は東シナ海の沖縄県尖閣諸島への領海侵犯を繰り返し、5月21日には宮古島の海峡を爆撃機が西太平洋へ抜け、第1列島線を突破するデモ飛行を実施した。南シナ海のいくつもの岩礁を埋め立て軍事拠点を急速に築いているのは、アジアでの覇権をもくろむ中国が米国の力と意思を試す政治的軍事的戦略の一環でもある。ケリー米国務長官が5月17日、習国家主席に埋め立てが「米中関係に影響する」と警告したのを中国は無視した。米CNNテレビは同20日、海軍最新鋭の対潜哨戒機P8-Aポセイドンに同乗、埋め立て人工島周辺の独占ルポを放送した。翌日にはラッセル国務次官補が人工島周辺は「国際海域、空域であり、航行の自由の権利を行使する」と述べ、さらに国防総省も「次の段階」として米軍機、艦船を人工島の領海(12カイリ)以内に進入させる可能性を示した。オバマ政権の強い対中警戒感を示すものだ。これに対して南シナ海のほぼ全域の「主権」を主張する中国は猛反発、一触即発の軍事的緊張が高まっている。
集団的自衛権行使の3要件の一つである「日本の存立が脅かされる事態」は日本の予見や予測を超えて、中東だけでなく東・南シナ海を含め、いつでもどこでも起こり得る。これに対応する法整備を怠ることは国民の生命、財産を守る政府の責任を放棄するに等しい。日米安保同盟の有効性は米国の抑止力を安保情勢の変化に合わせて高め続けることで確保される。米国は安倍政権による集団的自衛権の限定的な行使容認によって、日米同盟の取り決めは「よりバランスの取れた安全保障パートナーシップを加速する」「新ガイドラインはシーレーン(海上交通路)防衛、東アジアを越える米軍事作戦への日本の貢献を含む日米安保協力の範囲を著しく拡大する」(議会報告書)と高く評価した。安倍内閣は国民の安全を守るという政府の第一義的な責任を全うするため、安保関連法案を今国会を長期延長してでも成立させなければならない。
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