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2015-06-02 00:00
国際圧力だけが中国を動かす
鍋嶋 敬三
評論家
シンガポールで5月末に開かれた恒例のアジア安全保障会議(シャングリラ対話)は南シナ海問題一色だった。中国による岩礁の大規模埋め立て、滑走路や港湾の造成に国際的な警戒感が一気に高まり、地域安全保障の脅威として急速に浮上したからだ。3日間の会議の特徴として、第一にオバマ米政権が明確な対中強硬姿勢を打ち出し、東南アジアの関係国への軍事協力を強化。日本も地域安定へ積極的な役割を表明、日米豪3カ国が共同声明で埋め立て中止を要求するなど、同盟関係国が足並みをそろえて対中圧力を強めた。第二に中国が人工島の「軍事目的」を初めて公言、南シナ海での防空識別圏(ADIZ)設定の可能性を否定せず、軍事的緊張をさらに高めた。第三に東南アジア諸国連合(ASEAN)に中国との間で拘束力のある南シナ海の行動規範(COC)合意に向けた協調姿勢が強まったことである。
米国のカーター国防長官がシンガポールへの途上ハワイで演説、中国が「国際規範を踏み外した」として埋め立ての「即時、恒久的な中止」を要求、かつてない強硬な態度表明をした。米国は東南アジアの海洋能力向上に4億2500万ドル(527億円)を拠出、ベトナムやインドとも軍事協力を強める。フィリピンとの防衛協力で少なくとも8つの軍事基地が使用可能だ。フィリピンは反米民族感情の高まりから1992年に極東最大のスビック湾海軍基地、クラーク空軍基地から米軍を追い出したが、国軍にその空白を埋める備えが全くなかったため、中国の軍事的進出を許した。ガズミン比国防相は「これは誤りだった」「米軍がいたら、こんな苦境には立たされなかった」と戦略的失策を悔やんだが、後の祭りだ。一国の戦略の誤った選択が地域のパワーバランスを崩す好例である。
中谷元・防衛相が演説で「シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ」(SDI)を提案、東南アジアの参加国から歓迎された。(1)海と空の共通のルール作り、(2)海上の警戒監視能力の向上、(3)災害対処能力の向上が主な内容で、「すべての国が同意する」(シンガポールのウン国防相)と好意的反応が目立った。日本の防衛・安全保障政策の透明性、技術的能力や資金協力などがASEAN諸国の理解を深めることにつながっている。アジア諸国にとっては、中国の軍事的進出を目的とした人工島の造成は穏やかではいられない。米国の偵察写真では3000メートル級滑走路、レーダー施設や火砲の存在も明らかにされた。中国側は「埋め立ては主権の範囲内で正当だ」と批判を突っぱねるばかりで、米国の専門家は中国は地域諸国の懸念には「馬耳東風だ」と批判した。
大きな変化を見せたのはASEAN 諸国だ。「対話」の主催国シンガポールのリー首相は基調演説で「ASEANと南シナ海での拘束力のある行動規範(COC)をできるだけ早く締結すべきだ」と中国に呼び掛けた。紛争当事国の一つだが、対中関係には慎重なASEAN議長国のマレーシアのヒシャムディン国防相が「COCが最善の道」と関係国の合意に向けた協議促進を提唱した。中国寄りの姿勢が強かったカンボジアのテオ・バン副首相兼国防相もマレーシアに同調した。ASEANNの大国インドネシアは中国を加えた共同パトロールを提案するなど、これまでにない動きが出ている。日本は中谷提案に基づいてASEANとの協力を強化、米豪のほかフィリピン、ベトナムとの海洋防衛協力を進めて、日本にとって死活的に重要な南シナ海のシーレーン(海上交通路)を守る国際的な協力態勢を作り、抑止力を高めることが課題である。そのためにも安全保障法制の整備は不可欠である。軍事、外交を含めた国際的な圧力の高まりだけが、硬直した中国を動かす。「君子(ではないが)は豹変(ひょうへん)す」を期待したい。
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