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2015-06-15 00:00
「プーチン訪日」は制裁解除後だ
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三首相は6月8日、先進7カ国首脳会議(G7サミット)後の記者会見で「北方領土問題を前に進めるため、プーチン(ロシア)大統領の訪日を本年の適切な時期に実現したい」と語った。G7首脳宣言が「領土の一体性堅持のコミットメント」で一致団結、ロシアによるウクライナの「クリミア半島の違法な併合への非難」を表明し、対ロシア制裁は「ミンスク合意の完全な履行」がなければ継続することを明記した直後だけに、発言には強い違和感がある。岸田文雄外相は大統領の年内訪日実現に向けて、秋にも訪ロを検討中と伝えられる。ロシアに厳しいサミット宣言とは裏腹に「プーチン年内訪日」を模索する安倍政権の対露政策はG7 の結束を乱し、米欧からの孤立を招く道である。プーチン訪日はロシアがミンスク合意を完全履行し、制裁が解除されてからでなければならない。
G7では安倍首相が中国を念頭に東シナ海、南シナ海での緊張について積極的に発言し、「現状の変更を試みるいかなる一方的な行動にも強く反対」と宣言に明記された。領土の一体性と主権の尊重について米欧と呼吸が合った成果だ。国際法の原則についてG7として一貫した姿勢を示すことができたことは、当然とはいえ大きな収穫だった。これはロシアや中国には大きな圧力になる。両国が宣言に強い反発を示したわけである。オバマ米大統領はサミット後の記者会見で「G7はロシアがミンスク合意に違反し続ける限り制裁を続ける」「欧州連合(EU)は7月以降も制裁を延長する」と言明。フランスのオランド大統領は「EU首脳会議では制裁を今年末まで延長する提案がされる。ロシアが行動しなければ制裁は強化される」と述べた。
オバマ大統領のプーチン批判はこれまでになく厳しかった。ウクライナ問題は「結局、プーチン氏の問題に帰結する」として、「ソビエト帝国の栄光の再生という間違った欲望を追い求めて、ロシアの孤立化を続け経済を破綻させるのか。それとも他国の領土の一体性と主権を侵さないことがロシアの偉大さになることを認めるのか、ということだ」と、プーチン氏に選択を迫ったのだ。サミット直前に英国の王立国際問題研究所(チャタムハウス)が「ロシアの挑戦」と題する報告書で、プーチン政権の評価と西側の対露戦略についての勧告をまとめた。「ウクライナの戦争と、冷戦後のヨーロッパの国際秩序をひっくり返そうというプーチンの企図によって、多くの西側の政府はロシアへのアプローチを再評価せざるを得なくなった」として、「明確で一貫性のある対露政策の遂行」を求めた。ウクライナの領土侵害の問題が完全に解決されるまで制裁の継続を主張したのである。G7の厳しい首脳宣言は報告書の内容を反映した形になった。
残念なことに、G7後もウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力間の戦闘が東部で続いており、ミンスク合意は守られていない。バイデン米副大統領はウクライナのヤツェニュク首相との会談でロシアのウクライナへの介入が続けば「重大な追加制裁を科す」と警告した。ロシアとEU、北大西洋条約機構(NATO)間の緊張が高まる危険は少しも減少してない。日本は2016年のG7議長国としてアジアだけでなく全世界におよぶ国際秩序の安定化のため、リーダーシップを求められる。そのための不可欠な条件は、価値観の共有を基礎とした日米欧の結束にほかならない。ロシアがミンスク合意の履行に向けて真摯(しんし)な行動を起こさない中で、「プーチン年内訪日」やロシアのG8復帰をあえて進めるとすれば、安倍外交の基本姿勢について米欧の疑念を深めるだけだ。それが「法の支配、主権、領土の一体性を重視する」(安倍首相)という日本外交の基盤を崩すことは明らかである。
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