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2015-07-13 00:00
注目される米越関係の「戦略化」
鍋嶋 敬三
評論家
東南アジアをめぐる日米中3カ国のせめぎ合いが激しくなってきた。中国の興隆、米国の後退、日本の復権を背景にした勢力バランスの揺れが大きくなったためである。それを象徴するのが、ベトナム最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長の初訪米による米越関係の「戦略化」である。ベトナム戦争終結40周年、米越国交正常化20周年の節目に訪米を実現させたチョン書記長は、7月7日のオバマ大統領との会談後、「最も重要なことは、われわれは旧敵国から包括的パートナーへ変身を遂げたことだ」と明言。対中対決が深まる南シナ海問題で米国と「見解と懸念を共有し」、「防衛、安全保障協力を含めたすべての分野で包括的協力を進める」ことで合意した。オバマ大統領が「ベトナムは非常に建設的なパートナー」と称賛したのも無理はない。米中間で等距離外交路線をとってきたベトナムの戦略転換だったからである。
このようなベトナムの路線転換は、中国が2014年以来、南シナ海でベトナムの排他的経済水域(EEZ)内に石油掘削装置を一方的に設置、岩礁の埋め立てによる人工島の建設と軍事拠点化の急速な動きに押されたものであることは明らかだ。ハワイの安全保障問題専門家A.ブービン氏は、米越関係は新たな高みに達し、「非公式な戦略同盟」が政治的に可能になると分析している。米外交問題評議会のJ.カーランジク上級フェローは米越関係は強化され、ベトナムの環太平洋経済連携協定(TPP)参加によって、米国や日本から新たな投資を呼び込む流れができ、米国からの武器輸出が拡大すると読んでいる。オバマ大統領が今秋にも訪越の見通しだとして、次期大統領が条約に基づいた同盟関係を検討する可能性にまで触れた。
中国はアジアインフラ銀行(AIIB)を発足させ、巨大なインフラ投資を武器に東南アジア諸国連合(ASEAN)の取り込みにかかっている。新たな動きとして、タイの軍事政権が、条約上の同盟国である米国による軍事援助の凍結などの民主化への圧力に反発して、中国に急接近し、潜水艦3隻の購入など対中軍事協力を強めている。親中国のカンボジアに隣接するタイの動きは、中国にとってはベトナムを挟み撃ちにする形でインドシナ半島での影響力を強め、さらにインド洋への進出を容易にする軍事戦略上のまたとない好機であろう。このようなめまぐるしい動きを背景に7月4日、日本主催で開かれた日・メコン地域5カ国首脳会議で採択された「新東京戦略2015」は大きな外交的意義があった。
カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、ベトナムの首脳が顔をそろえ、日本の「戦後70年の平和国家としての歩み」を高く評価した。日本はメコン流域の「質の高い成長」実現のため、3年間(2016ー18年)に7500億円規模の支援をアジア開発銀行(ADB)などと連携して進める。「戦後70年首相談話」や中国のAIIBをにらんだ布石である。南シナ海の海洋紛争について、ASEAN と中国間で合意している2002年行動宣言(DOC)の「完全かつ効果的な履行」および拘束力のある行動規範(COC)の「早期妥結の重要性」を再確認したことは、親中国のカンボジアが参加しているだけに、意義は大きい。日本はベトナムにとって最大の援助国である。人口はメコン地域最大の9000万人を超え、一人当たり国民総生産(GDP)は2000ドル(IMF、2014年)とまだ低いが、経済成長率は6%近く、将来性は高い。安倍晋三首相が最初の外遊先として訪問(2013年1月)したのがベトナムであり、翌年、サン国家主席の訪日で「広範な戦略的パートナーシップ」で合意して以来、首脳級の交流がひっきりなしだ。ベトナムを挟んだ日米中の綱引きが今後のアジア情勢に影響を与えることは必至である。
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