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2015-08-04 00:00
(連載2)F35戦闘機は航空戦のあり方を変えるか?
河村 洋
外交評論家
以上のような価格と技術的な問題はあるが、F35についてはステルス性以外にも新しい戦術および戦略の概念を理解しなければならない。イギリス空軍のアンドリュー・リンステッド退役大佐は元トーネード戦闘機パイロットとして「新しい戦闘機を判断する際にスピードや飛行高度、機動性といった従来から馴染んできた指標に頼ることは理解できる。しかしF35には戦場での全ての情報を一つの画像に統合してパイロットが迅速かつ的確な決断を下すためのSA(状況判断)を支援するとともに、僚機とも情報共有ができるという大きな利点がある」と述べている。長年にわたるトーネードでの経験から、リンステッド氏はこの技術こそ新しい時代の戦闘で重要になると主張する。
F35は単なる技術革新ではない。パイロットでもエンジニアでも整備工でもない我々が注視すべきは、政策形成に当たっての新時代の戦略概念である。『ポピュラー・サイエンス』誌のエリック・アダムズ航空軍事編集員はディスカバリー・チャンネルの”Secret of Future Air Power 2015”という番組で「アメリカの将来の航空兵力の鍵を握るのはステルス、UAV、EMP(電磁パルス)といった技術を超えて、航空戦を行なうことなしに敵を無力化するという概念である」と語っている。実際にステルス技術そのものは新しいものではない。ナチス・ドイツがすでに現在のステルス戦闘機の原型を開発している。RCS(レーダー反射断面積)を低下させただけで戦争が劇的に変わるものではない。またBVR戦も新しい戦術概念ではない。それはすでに1954年にアメリカ海軍がF3DスカイナイトにAIM7スパロー対空ミサイルの配備を始めてから実施されていたものである。F35を配備するための戦略および戦術思想は、そうした長年の進化の成果なのである。よって、新鋭の戦闘機にたった1回の格闘戦の勝敗で評価を下すのは性急である。軍事評論家の岡部いさく氏が述べるように「戦闘機を“虎とライオンが戦ったらどちらが勝つか”のような単純化された議論で比較することはあまり意味がない」のである。先のリンステッド退役空軍佐も同様なことを述べている。
しかし戦争は進化する一方で古い性質も保ち続けることも銘記すべきである。よって新しい概念を過剰に盲信することは危険である。ベトナム戦争の時にはF4ファントムは機銃を外して完全にBVRミサイルに依存し、ベトナム軍のミグ17、ミグ19、ミグ21と対戦した。その結果、アメリカ軍のF4は全てのミサイルを撃ち尽くして格闘戦に入ると全く脆弱になった。そこでアメリカは自国の戦闘機に機銃を再配備して格闘戦での巻き返しをはかった。F111はBVRと地上攻撃に固執したために空中戦では全く役立たなくなった。BVR戦と近接航空戦の要求を両方とも満たしたのはF14トムキャットで、重量のあるAIM54フェニックス長距離対空ミサイルが搭載可能だった一方で、模擬格闘戦でF15に勝つほどの機動性があった。F14とは違い、F35は初期のF4、そうでなければF111の21世紀版に陥りかねない。戦争の理念は進化するであろうが、F35が格闘戦能力をテストしたこと自体、古い戦い方が依然として重要なことを示している。
F35に関する賛否はともかく、それはアメリカと開発に関わった多くの同盟国の空軍力に重要なものとなる。新しい戦争の概念とF35の長所と短所の充分な理解がなければ、この新鋭機をうまく活用することは難しいであろう。JSFのパートナーおよび顧客となった国の政府が全て、それらを充分に理解しているのかとなると疑問の余地がある。中にはステルス技術に飛びついた国もあるだろう。また、空軍力のハイ・ロー・ミックスを考えるのはパイロットやエンジニアではなく、政策形成者の仕事である。ホステージ大将が述べるようにF35は開戦初期の段階で敵のレーダー網を抜けて空爆に使用されるだろう。これはF35がローの役割を担うことを意味する。各国でF35のハイ・ロー・ミックスのパートナーとなるのは、アメリカ空軍では第5世代のF22、イギリス空軍では第4.5世代のタイフーンとなるであろう。しかしアメリカおよびイギリスと違って日本でハイの役割は引き続き第4世代のF15が担うことになりそうである。航空自衛隊は中国が計画しているJ20とJ31両ステルス戦闘機によるハイ・ロー・ミックスに対抗できるだろうか?またF35の価格高騰とスケジュール遅延はアメリカとその他のJSF開発パートナー諸国では論議をよんでいるのに対し、日本や韓国などはただこの戦闘機を輸入するだけで満足という優良顧客になり過ぎているように思われる。数年の内にF35の配備を始めるためには非常に多くのことを考慮する必要がある。(おわり)
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