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2015-08-18 00:00
(連載2)安倍談話は「普通の国」への出発点
鍋嶋 敬三
評論家
キッシンジャー博士の考えでは国際秩序に挑戦する二つの問題がある。第1は正統性の再評価。正統性を覆す価値の基本的な変化によるもので、近世以降ではフランス革命、20世紀の共産主義、ファシズム、現在のイスラム主義者の攻撃などを挙げた。第2に力の均衡の重大な変化。その例としてソ連邦の崩壊による欧州共産主義勢力圏の解体がある。新興勢力と既成勢力の均衡が崩れた場合もそうであり、ドイツの出現は20世紀に2度の大戦を引き起こした。現在の中国も同様な「構造的な挑戦」を招いているとして、挑戦者としての中国問題を指摘した。
その中国は大きな矛盾を抱えている。国連安全保障理事会の常任理事国として世界の安全と平和の維持に大きな責任を持ち、そのために拒否権という特権を享受しながら、他方では地政学的な現状の一方的な変更によって国際平和を脅かす存在でもある。ウクライナ侵略の「プーチンのロシア」もそうだ。中国は共産党一党支配の独裁政権だが、創建以来、文化大革命など党内の権力闘争が熾烈(しれつ)で、対外的な摩擦は政権の求心力維持の有力なてこになる。中国の対外政策についてキッシンジャー氏は、中国共産党政権が第2次大戦後の体制作りに「参加していない」という意識に影響されていると見ている。このため中国が中心になり、あるいは中国が受け入れる国際ルール作りに関与したい動機が生まれる。習近平政権が米国に対して執拗(しつよう)に「新型の大国関係」を求め、国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)への不満からアジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(通称BRICS銀行)を相次いで設立したのも、このような文脈から見ると分かりやすい。
日本が「積極的平和主義」の旗を掲げて世界への貢献を果たすために必要なことは、21世紀世界の危機的な現状の認識を国民レベルで広げ、深めることである。2001年の9・11対米テロ攻撃は世界秩序への挑戦の号砲に他ならなかった。中東などの主権国家の崩壊、非国家主体による国境を越えた武力行動、ギリシャ危機など国家の存立基盤さえも揺るがす経済のグローバル化など、20世紀には想定外だった事態が進行中である。これが日本の存立を脅かす世界の現実だ。しかし、世界の大局を見る目が日本の政治家やマスコミに欠けている。多極化の進展と危機の多様化によって、一国で安全保障を確保することが困難の度合いを強めてきた。同盟強化や有志連合など様々な連携の組み合わせによって、国民の安全を守ることは政治の最も重大な責任である。
日本が取るべき方策として優先すべきは三つある。第1に、安全保障面で日本と米国、豪州などの価値観を共有する国との同盟、提携関係の強化。同盟関係の弱体化は日本の存立の大前提を崩す。戦争や紛争の悪化を未然に防ぐための抑止力を高める安全保障体制の強化は不可欠である。安全保障法制の今国会での成立は必須条件だ。第2に中国との関係強化である。経済では互いに切っても切れない関係にあり、政治的信頼関係なくして経済関係の発展はできない。日中間で首脳会談を重ねて日本の針路について、対米関係を含め中国の理解を深めるさせることが肝要である。第3に地域機構との連携の強化。東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東アジアサミット(EAS)や環太平洋連携協定(TPP)などに対する外交の強化である。アジア太平洋、インド洋諸国にとって日本か中国か、米国か中国か、という選択を迫られることは避けたい。日中、米中関係が不安定なら地域も不安定になるからだ。日米同盟強化と日中関係の安定が地域の安定につながる。安倍政権はこのような認識に基づいた懐の深い外交の展開が必要である。(おわり)
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