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2015-09-07 00:00
大国圧力に抗するアジアの合従連衡
鍋嶋 敬三
評論家
9月3日の中国の対日戦争勝利70周年記念式典と軍事パレードは、「対日」より「対米国」「対アジア」の意味が大きかった。アジア太平洋地域から米国を駆逐し、日本など同盟国の抑止力を弱める一方、アジア諸国を自らの勢力圏に取り込むという習近平政権の長期的戦略の一環である。しかし、あまりに強い反日・軍事色に諸国の警戒感が強まり、日米欧の主要国のほか、日本か中国かの「踏み絵」を迫られた東南アジア諸国連合(ASEAN)の半数が首脳の出席を見送った。北京の行事が終わるのを待つかのように、インドネシアのジョコ大統領は日中両国が激しい受注競争をしてきた高速鉄道導入計画を白紙に戻した。国内事情があるにせよ、日中どちらかに肩入れしたと取られたくない外交的配慮が働いたことは否めない。
習国家主席は式典の演説で「平和」を連発した。「中国は平和と発展の道を堅持する」「中華民族は歴史的に平和を愛し」「今後も永遠に覇を唱えず、拡張もしない」。しかし、第2次世界大戦後のわずか35年間に朝鮮戦争、中印国境紛争、中越戦争などで本格的武力攻撃を行い、21世紀に入るや南シナ海で紛争中の岩礁を埋め立てて軍事基地化し、東シナ海の尖閣諸島(沖縄県)の領海侵犯を繰り返している中国の言葉をまともに信じる者はいない。習氏はまた「(中国)自身が経験した悲惨な境遇に他の民族を押しやることはしない」と述べたが、チベットや新疆ウイグル自治区での民族弾圧を知るアジア諸国はしらじらしい印象を強めただけだろう。
東南アジアの安全保障専門家は、中国の軍事力誇示はアジアにおける勢力圏拡大の意図を示すものと分析している。「米空母キラー」と言われる対艦弾道ミサイル「東風21D」は米国に対するA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略上、有力な武器であり、南シナ海で紛争中のフィリピンやベトナムなどASEAN諸国に対して「中国と問題を起こすな」という警告でもある。華人国家でありながら米国とも防衛協力が進むシンガポールのシャンムガム外相は報道インタビューで大国と渡り合う「巧みな外交」の必要性を強調した。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加問題では、米国の強い反対圧力をはねのけて最初の支持国になった。同外相は中国の長期目標は東アジアで米国を排除して「支配的な国になることだ」と断言。米国は中国の挑戦を受け付けず、日本は東南アジアでもっと積極的な役割を果たそうと望んでいると見ている。
米、日、中三大国の競争が激しさを増し、大国は「あなたはわれわれの敵か、味方か」と迫ってくる。このような圧力の高まりに対して「真に巧みな外交が必要であり、外交の核となるのは強力な防衛力や地域機構」と同外相は主張した。南シナ海紛争の当事国であるフィリピンはベトナムと年内に「戦略的パートナーシップ」の協定に署名する方針だ。ベトナムは日、米とも戦略的関係を強めており、7月に訪米した最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長が9月15日に来日する。インドも日、米のほかオーストラリアとも防衛関係を深め、9月にベンガル湾で海軍が共同訓練をする。弱いもの同士が組んで強いものに対抗する合従(がっしょう)と、弱いものが強いものと組んで生き残りを図る連衡(れんこう)の動きが盛んなありさまは、紀元前4世紀の中国戦国時代の外交策を彷彿(ほうふつ)させる。時空を超えた現在でも、中国の突出した軍事力強化によって地域情勢が不安定の度合いを著しく強めた証しでもある。11月、フィリピンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会合が次の外交戦の主舞台になる。
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